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嘘と演技

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「G―girlは…G―girlはさくらさんなの」
「えっ?」
「世界を陰で動かしていたのは本条則明。G―girlであるさくらさんは彼女の父の言いなりになってただ売春を繰り返していた。今度のTEPにも本条則明は出席する。もしさくらさんが釈放されるとすればTEPの最後の契約の決定になるクリスマスの日に彼女はロシアへ旅経つ。売春婦として。さくらさんは小さい頃から人助けの為という言葉を常々言い聞かされていた。そして思春期に世界の為と売春をせがまれた。お前のおかげで何億という人が助けられるんだ。世界がお前にかかっている。お前は世界規模の人助けをしているんだ。以前さくらさんが新宿で嘔吐したのは歌舞伎町。新宿の歌舞伎町でソープランドの呼び込みをしている時嘔吐したの」
 私はその時頭の中で箱根の事がフラッシュバックした。
「死にたいの。死なせて頂戴」
「またそんな事言って。お父さんが聞いたら悲しむよ。さくらの事を思って箱根にまで来たのに。少しは良くなるだろうと思って…」
「そういう事が余計なの」
「みんな良くなってデイケアを卒業して、私だけがいつまでたっても良くならない。それは神様が私に死ねって言ってるの…」
「そんな神様が死ねだなんて。あなたは心の病、心の風邪をひいているだけなの。ゆっくり治していきましょ」
「治らないわよ。ずっとこの先私の若いうちは治らないわよ」
「十代のうちに治らなくたってゆっくり治していきましょ」
「お母さんは私の気持ちも今の状況も何も分かってないのよ」
「私はあなたの事を一番よく見ています。母親として」
「クリスマスはお父さんも日本に帰ってきて一緒に過ごせるでしょ」
「クリスマスなんて言わないで。身の毛もよだつ」
「抗うつ剤飲んでもちっとも良くならないわよ。効くわけないでしょ」
「中西先生も…
 …時間をかければ」
「…そもそも私は違うのよ…」
「……まだ十代なんだし…」
「……適当な事言わないで……」
「………せっかく箱根にまで連れてきているのに…」
「世界なんて滅びればいいのよ。政治家なんてもっとも下品な仕事の一つだわ。まるでやくざよ」
 留置所で、
「さくらさんとあの橋を架けるまでの劇を撮影した後、DVDで見た時、セリフの間違いがあって笑ったじゃない。よくあんな難しいセリフが全部完璧で簡単な言葉を間違うなんて。さくらさんは面白いねって先生も言って…私間違ってないわよ。私達は困っている人を助けちゃいけないの。そう言ったけど間違ってないわよ。いつだって間違ってないいついも完璧な演技だったわ」
「早くここから出して。私が死ぬのはいいけど、クリスマスまでにここを出なければたくさんの人が…」
 私は平静を取り戻そうとあやめさんに目をやった。しかし平静ではいられない。
「では犯人は本条則明。どうやって?アリバイがあるのに」
「さくらさんの父はさくらさんのお母さんが殺された日、確かにロシアにいた。午後3時まで目撃情報があります。皆と別れてホテルに戻ったという他の人の証言があります。次の日の午後4時には会議に出席している。午後4時にモスクワにいてそこから東京には行けない。モスクワから東京まで10時間はかかるから殺人のおきた時間、午後9〜12時頃にさくらさんの父が日本にいる事自体当たり前に無理って思ってた」
「そりょあ無理だろう」
「でも可能なんです」
「えっ?」
作品名:嘘と演技 作家名:松橋健一