嘘と演技
“結局犯人はさくらさん。俺は何をしていたんだ…何をしていたんだ…”
留置所に着いた。受付で許可をもらいさくらさんの所へ通された。また例の部屋にさくらさんに待ってもらい、私は霧島と中へ入った。さくらさんと目が合い、
「あらご機嫌よろしゅう弁護士さん」
「覚えていてくれたか」
「忘れもしない。あなたは私を誘惑した、オオカミの様な王子様。私を助けて、体を奪って、何が目的なのかしら」
「誘惑したのは君だろう」
「何を言っても無駄無駄無駄。私は狂ったシンデレラ。毎日一人でいるのに声が聞こえる」
「何て聞こえるんだ?」
「いいか。お前は狂っているんだ。狂っているんだ。そんな声が毎日毎日。そう私は狂っているんだ」
「病気や障碍でもそこまで狂わない筈だ。もし演技をしているのならいい加減に辞めるんだ。俺達にとっても君にとっても何の利益もない」
「そうしたくても声が聞こえるのでできません」
「幻聴か…病名の事だが…君は鬱以外に障害を持っているんじゃないか。そう睨んでいる」
「二重人格の事ですの?」
「何故それを知っている。まあ解離という言い方をしていたが」
「診察の過程で分かるじゃない。誰でも自分の事は知りたい。私の医師の先生が蛇の様な文字を書く先生がsepと英語で書きました。それはseptemberではなくseperate。暗号の様に本来の訳とも違う書き方をしますの。私は調べたの。自分のこと知りたくて調べたの。私にもう一つの人格がある」
「君にもう一つの人格がある?それは本当か?」
「本当です。そして私は母親を殺しました。もう一つの人格が殺しました。ああ。今でも声が聞こえてくる。いいか、お前がやったんだ。ああ恐ろしい。恐ろしい。私はなんてことをしてしまったのかしら…」
彼女の動きに合わせて彼女の長髪が虚しく揺れる。
私達はしばらく、ちぐはぐな話をしてさくらさんと別れた。
小菅留置所を跡にした。