嘘と演技
今度はしばらく長い時間受付の女性は話をしていた。
「病名は鬱だそうです」
「それは分かっている。それより何とかならないのか。一つ質問して返ってくるのにえらい時間がかかるじゃないか。直接会って話がしたい。鬱以外に本人にも家族にも伏せている障害の事実を教えてほしいと」
「分かりました」
受付の女性はまた長い話をしていた。
そうして内線を切って私達に、
「ではそこのカウンセリングルーム?の部屋で待ってて下さい。時間はかかるかもしれませんが」
そう言って私達はカウンセリングルームに通された。しばらく待って来たのは主治医ではなく若い看護師だった。
「すいません。先生は立て込んでいる様で」
「なんだ。本人は来てくれないのか?」
「ええ。本当忙しいスケジュールなので」
「まあいい。本当の障碍名、他の病名あなたは聞いているだろう。教えてくれないか?」
「本条さくらさんの病名ですね」
彼女は事務的にカルテを見た。
「鬱となっていますが…」
「だからそれは知っている。他にもないのか?」
「他にと言いますと…」
「例えばだな。例えば解離性同一障がいとか?」
「ここにはそう言った事は載っていませんが…」
「載っていなくても…じゃあいい、あなたも看護師だろう。あなたから見てさくらさんをどう思う?解離があるかないか?」
「さあ…そう言った事は私には…」
「あなた看護師何年目なんだ?」
私は少しイライラして聞いた。
「はいまだ務めて半年の新米です」
「じゃあもっと話の分かる人を連れてこれないか?先生はどうした。3分でいい。いや1分でも…」
その時ドアがバタンとあいた。中西先生だった。
「なんだ、あなた達さっきからうちの看護師を侮辱して」
「聞いていたのですね?」
「ああ、聞いてましたよ。そうだよ。あなた達の言うとおりだよ。本条さんは解離性同一障がいだ。私達はそう判断した。診断を下さず。家族にも本人にもその事実を伏せている。大変な事件が起きてしまった。それは本条さんのもう一つの人格が彼女を狂気にさせた。そして悲劇は起こった。どうだ。もうこれでいいだろう」
彼はそう言って立ち去った。私と霧島は呆然としてそこに座っていた。若い看護師は、
「ではそういう事で」
そう言って部屋を出て行った。
私達はとぼとぼと病院を跡にした。
しばらく無言で歩き私が、
「松井の言っていたこと事当たったな」
そう言った。
「当たってますね。では結局犯人はさくらさん」
「そう思いたくないが…」
「でも松井の言った通りじゃないですか」
「何だろうなあ。俺たちは何をしてたんだろう。俺は小田急線であの親子の愛を感じて、あれがなかったら…本当なんだろう…霧島今から本条さくらさんのいる小菅留置所に行かないか?」
「結城さんがそうしたいんなら」
私達はまた無言のまま小菅留置所に向かった。