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嘘と演技

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テレビでは昨日さくらさんと子と話していた母が殺されたのは確認できたが、その子がさくらさんで、殺人を犯したといわれる容疑者当人であるかの確認が取りたかった。私はその日の仕事中いろいろな事を考えすぎた為、頭に入らなかった。普段の弁護士の仕事は離婚に関する慰謝料の問題、高利貸しの借金のトラブル、消費者と業者とのトラブル、その他さまざまだが、10年も仕事をしていて殺人事件に関わったことは一度もない。
普段そう、大事は舞い込んでこない。是非ともこの親子の殺人事件を担当したい。


私はその晩港区の警察署をつてにこの親子の自宅を訪問した。丁度お通夜でいろいろな人が来訪していた。かなりの人数だ。よほどの著名人でなければこんなには人は集まらない。門をくぐるとそこは港区とは思えない、大きな敷地で三階建ての家だ。私には到底建てられない豪邸の様な家がそこにあった。

来訪者のほとんどが男であった。
その時だった。刑事と思われる人に連れられ、あのさくらさんが現れた。
彼女は悪びれた様子もなく、むしろ機嫌の良さそうな顔で敷地に、入ってきた。と同時に横にいた中年の女が、こそこそと話をしていた。
「よく来れたものね。本条家の恥だわ。真由美はあんなに。あの子を心配していたのに。うっ…」
「おい泣くな。これで彼ら家族とも距離を置くことができるんだ」
 他にもさくらさんに向けての批判の様な声が、あちこちでこそこそされていた。
お焼香を済ませ、手を合わせ、母親である真由美さんの死に顔を見て、彼女は刑事とともに立ち去ろうとしていた。
 私は何とか彼女と話をしようと周囲の視線を顧みず、彼女に近寄っていった。彼女の前に立ち、
「こんばんは」
そう言うと、さくらさんは驚きも見せず、まったく表情を変えずに、
「あなたはだあれ?」
 そう言ってきた。
「私は結城洋平と言います。弁護士をしています。ちょっと話を聞きたいのですが」
 そこを刑事の人が私に向かって言った。
「弁護士?彼女は弁護士を頼んではいない筈だが…」
「はい。依頼されていないのですが、どうしても彼女と話をしたいのです。私は事件の日の夜7時頃、彼女ら親子を見ているんです。いろいろ疑問をもちまして確認を取りたいのです。さくらさんまずあなたは本当にやったのですか?母親を殺めてしまったのですか?」
 彼女は爛々とした表情で、
「私は私はいけない子。人をも殺める女の子。どう罰すればいいのでしょう?どこへ行ったらいいのでしょう?居場所がないわ。あら大変。困った。困った。まるで迷子の子猫ちゃん」
 彼女は奇怪な歌の様なものを歌いだした。
「ちょっとさくらさん。ふざけてる場合じゃないんですよ。あなたこのままだと殺人犯になってしまうんですよ。本当の事を話してくれないと」
 刑事が、
「弁護士の結城さんだったっけ。悪いが彼女は精神疾患を持っているんだ。見ての通り」
「ちょっと待て。俺はあの日君たちを見たぞ。こんなにおかしくはなかった筈だ。少なくとも普通に話すことはできた。何故?今君は何のためにそんなふざけた真似をしている」
「ふざけてなんていませんわ。私はいつも真面目です。学業さっぱりしないけど、運動ぱっとしないけど、人のためには何でも尽くす。殺人だってためらわない。ああ、この無間奈落。世の中みんな狂ってる。私は神のしもべでも、人を殺めてしまっては。ああ、どうしよう。かすみ草。頭に飾ればきっと明日は開けるはず」
作品名:嘘と演技 作家名:松橋健一