嘘と演技
彼はカバンから何か取り出した。けん玉だ。みんなの前でけん玉をやって見せる。歓声が上がる。彼はそれを学校にプレゼントする。
これが犯罪人の、人を殺した男の見せる光景か?
私は何かを見落としているのか?
そもそも本条父は犯人でないのか?
そう言えばなんだろう。私はこの事件に関わって以来、ずっと何かの違和感を感じている。何だろう。ずっと何か喉につかえてるように引っかかっているものがある。なんだろう。
みんな授業に戻っていった様だ。
本条則明は私達に歩み寄った。
“どうだ見たか。俺の持っている信頼を。あの子供たちの目を”まるでそう言っている様にも思えた“
「では向こうの職員室で約束の取り調べを受けましょう。子供達が聞くと無実と分かっていても心配する。言語が分からなくても子供は何かを感じ取るのです。彼らを不安にさせたくない」
本条はそう言って、私達は職員室に入り、ソファに腰かけた。
私は気を取り直す様に咳払いをし、
「ええ…まず…単刀直入に聞きます。あなたは奥様本条真由美さんを殺しましたか?」
「いいえ。そのような事実は全くありません。警察からも何度も聞かれました。馬鹿らしい質問に心を痛めましたが、何度も同じ返事をしました。まだ何か?」
「あの晩あなたはどこに?」
「それは刑事さんにも言ってある筈です。ロシアに仕事で行っていました。わたしはそもそもあの晩日本にいないのです。そういった事、聞いてませんでしたか?確か刑事さんは弁護士さんに伝えたと…ひょっとして家に取り付けている監視カメラの事も聞いていない?」
「いや…全部聞いている…」
本条は堂々とした表情で、
「まだ何か質問を?」
「いや…ええと霧島お前は何か?」
「ええ…では本条さんは殺していないと?」
「だから何度も言っているでしょう。殺していないし。私には殺すことができないのも明らかな筈です」
初めて本条が声を荒げた。
その日私達はホテルに戻り本条父から日本への航空券を買ってもらい、本条と別れることになった。別れ際本条は言った。
「弁護士さん。いろいろ大変だと思いますが真実を追求してください。それがあなたの仕事です。でも一つの偏見にとらわれないでください。小さな世界で堂々巡りしないでください。もっと全体を見てみるとそこに真実があると思います。真実とはそう言うものです。
“由美が同じような事を言ったな”私はそんな事を考えていた。
「では」
「では」
私達は日本に発った。飛行機の中で霧島は、
「私達は何しに行ったんでしょうね」
そう言った。
「さあ…」
そう返して私は眠った。