嘘と演技
「おはようございます。もうよろしいでしょうか?」
本条は会うなりそう言った。
「では私の車で向かいましょう」
「向かうってどこへ?」
「学校です。私の設立した学校。設立したと言っても私が金銭的な援助をしたという意味です。そこの生徒は本来金銭的に学校に通えない子供達が集まっています。当然すべてのカンボジアの子供を救えるわけではないのですが。少しでも力になれば…まあ趣味みたいなもので名ばかりの理事長です。普段は仕事があるからたまにしかここには来れません。できるだけ来るようにはしているのですが…なかなか」
私は頭の中で政治家がカンボジアに学校を設立…イメージアップか…そんな事を頭にめぐらした。こういうボランティア精神があるからって真実の究明を辞めたり、ぶれたりしないぞ。ぬかるな。
そんな事を車の中で考えていた。
我々は学校に着き、霧島が私の方に寄り、私に耳打ちした。
「イメージアップですかね。政治家の」
「俺も同じことを考えていた向こうのペースに持っていかれるな」
「さあこっちへ」
本条父は私達の話を遮る様に呼びかけた。
本条が学校に入るなり歓声が上がった。
「Mr.Honjo!Mr.Honjo!」
途端教室の授業が中断し、みんな教室を出て本条に駆け寄った。授業をしていた先生も何も言わすにこにここの光景を見ている。子供たちは満面の笑みで本条に抱き着く。
私は子供たちの目を見た。
何の濁りもない。意図もない。駆け引きもない。皆、真の純粋な目だった。
一方本条も孫を見てほころんだ顔の様な屈託のない笑みをしている。
愛がないと生まれてこない空気。
そう、私が小田急線に乗って本条母子の愛を見たあの時の様に。あの愛があったから私はさくらさんの無実を切に信じた。そして今目の前にいる彼本条は…