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嘘と演技

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霧島は、
「大丈夫ですか?結城さん。うなされてるようにも見えましたが…」
「ああ、そうか。別に何ともない。それより今何時だ?」
「こちらの時間で午後九時です。もう夜になります。日本との時差は2時間しかありません」
「時差か…」
「どうしました?」
「いや、何でもない。それより本条則明は空港に来ているのか?ネットで顔は確認したが…」
「そりゃあ、いるでしょう。まさかここまで連れてきておいて逃げるなんて」
 飛行機は着陸し、私達はゲートをくぐり、荷物を受け取って、出口を出た。出るなり、
「結城さん!」
 快活な声で、中年のおじさんが声を上げている。本条則明だ。
「こっちです。こっち」
「本条だ」
 私は隣にいた霧島にそう耳元で言った。彼は私達から疑われている事を知らないのか、これもパフォーマンスか、屈託のない表情で私達を迎えた。彼は私達を車に誘導し、私達を乗せて走り出した。
「良かった。今日来てくれて。明日から台風が来るらしいんです。是非明日見てもらいたいものがありまして。今日来てくれなければ。私の見てもらいたいものが見せられない。悪いとは思っていたのですが、本当にどうもすいません。急がせて急に来てもらって、四日後に私も日本に帰ってしまうし、ゆっくり話ができるのは本当にここカンボジアにいる時位なんです」
 私は半信半疑で距離を置きながら彼の話を聞いた。彼はしばらく、カンボジアの景気や治安、政治について語り、また、教育機関の杜撰さなどを熱く語り、そうしている間に我々はホテルに到着した。
 かなり一流のホテルだ。
「今日はお疲れでしょう。また明日迎えに来ます。心配しないでください。逃げも隠れもしません。では明日」
 そうして我々は本条と別れた。私と霧島はホテルマンからツインの部屋を案内させられた。
「なんか、呆気にとられるなあ」
私達の部屋の中での第一声がそれだった。
“疑われているにしては不用心ですねえ。変な言い方ですけど」
「うん。政治家みたいなもんだから頭はきく筈だ。用心に越したことはない」
「明日迎えに来ると言ったが、本当に来るのか。帰ってしまって良かったのでしょうか?ひょっとして私達はいま大事なチャンスを逃したのでは」
「まさか全然そう言う感じではなかったが」
「そうなんですよねえ。あまりにも無防備で却ってこっちがつっこんで聞けなくて、やっぱり私達は本条父のペースに乗せられている?」
「うーん。とにかく明日になればわかる」
 その晩我々はホテルで夕食をとり、早くに寝た。朝の9時頃ロビーから電話があり、来客者がいるとのことだった。本条父だった。
作品名:嘘と演技 作家名:松橋健一