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嘘と演技

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「フロイトの言った言葉でエディップス・コンプレックスという言葉があるけど、母と姦淫し、父を殺す願望。今学会でエディップス・コンプレックスなんて言葉を出したら笑われるわ。心理学はある心理学者の片寄によって築きあげられた。変人の部分としてもね。今はそんな哲学的な理論よりも数多くのケースを扱います。誰もそんなに心理学用語を使って熱く語りません。でもそう言う人が多くて。私の場合、特に職業を明かすとそんな話ばかりされて。聞いてて疲れちゃうわ」
「そうですか。まあ私達もさんざん疲れさせられたのですが」
「でもこの歳になって子供も持って、もし私が勉強したことを誰かに教えるとしたら心理学用語の意味を的確にとらえるかより、周りの社会に溶け込んでいるか、その中で自分らしく生きているか。そういう事の大切さを、時間をかけてゆっくり教えていきたい。いろいろな知識がなくても優しくエネルギッシュな人とか私は好きね」
「そうですか。あなたの言葉なら私にもよく分かります」
 その後も私達は空港で待ち、霧島と野副さんも雑談をしていた。私はボケッとしながら松井の事を考えた。
“あの野郎。無意識、無意識って”
 その時私の携帯が鳴った。由美からだった。野副結季花さんは、「誰から?」と聞いてきたので、彼女からと答えた。
「洋平、カンボジアに行くって?ちょっと前だったら私達会えたのに」
「ああ。急でごめん。今霧島とちょっと仕事で関わっているカウンセラーと一緒に向かうんだ。もうすぐ発つ」
「カウンセラー?そう。じゃあひょっとしてそのカウンセラー知ってるかもしれないから教えてほしい事があるの」
「教えてほしい事?」
「そう。私達あるカウンセラーを捜しているの。TEPに関する重要キーパーソンよ。世界を変える程のキーパーソン」
「カウンセラーを捜している?言っている事がよく分からないが」
「とにかくいろいろあるのよ」
「分かった。訊いてみる」
「そのカウンセラーの名前は野副結季花。その人について何か分かっている事があったら何か教えて」
「野副結季花?捜しても何も今隣に…あれっ?霧島、野副さんは…」
「たった今トイレに行くって…」
「由美ちょっと野副さんはここを離れたが俺達ずっと行動を共にしていたんだ」
「何ですって?捜して!どうして見失ったの?何が何でも探して」
「分かった。一旦電話を切る。じゃあ」
「霧島はここで待ってくれ」 
 そう言って私は野副さんを捜したが、近くのトイレからも一向に出てこないし、周りを見渡しても、人も大勢いる事もあって、見つからなかった。
 私は霧島に、
「野副さんは消えたようだ」
 そう告げると霧島も、
「そんな…野副さんは結城さんと由美さんの電話に耳を傾けていたようでしたが…」
「どのあたりで消えた?」
「結城さんが『カウンセラーを捜している?』と言った辺りで。急に『トイレに行くって』小走りで」
「明らかに意図的に消えたな」
「すいません。私も結城さん達の話に注意がいってて野副さんを目で追ってなくて」
 私はしょうがなく由美に電話して、
「野副結季花は消えた」
 そう伝えると、
「どういう事よ。捜してくれない?何が何でも」
「いやもう、数分でフライトが経つんだ。携帯電話は急ぎだったので国際対応はしていない。帰ったら詳しく聞かせてくれ」
「分かったわ。日本に帰ったらまた電話頂戴」
「うん。じゃあ」
 私達は成田空港からカンボジアに向かった。
作品名:嘘と演技 作家名:松橋健一