嘘と演技
私と野副さんは一旦別れ、私は由美にメールをしてから三人で東京駅で落ち合った。霧島と一緒に本条の秘書も来ていた。私達は4人で成田エクスプレスの特急に乗り成田に向かった。そこから中国を経由して、中国からカンボジアに行くそうだ。成田に着き、本条の秘書と一緒に私達は航空券を買った。着いたら本条がカンボジアの空港で待ってくれて、ホテルの手筈もしてくれるそうだ。その旨を伝えると秘書は仕事に戻ると言って帰った。
私は隣にいる霧島に、
「急だな…」
「急ですね…」
そういう会話がなされた。
私は、
「何か本条に思惑があるのか…ゆっくり考える余地を与えないとか」
「でも質問内容とかならフライト中ゆっくり考えられますけどねえ」
「そうだよなあ」
私もそう言った。野副さんは黙っていたが、うかない様子だった。
私は野副さんに話かけた。
「つかぬ事を訊きますが野副さんは心理学など、大学で学ばれたのですか?」
「まあ。ある意味では?」
「ある意味では?」
「結構大学で詰め込み式でいろいろ学びましたが、その言葉の意味が分かる様になったのは、大学を卒業して働いて10年位経ってからですね。
「大学卒業後も勉強し続けた?」
「勉強という言葉はある意味しっくりこないかもしれないけど、逆にこれこそが勉強なんだと思うけど、つまりは卒業後も勉強し続けました。その大半は上司に悩みを相談したり、大学の先生と本当の自分について話したり。自分を知らなければ心理学なんて分からないと思います」
「その言葉ある男に聞かせてやりたいよ。この前会った探偵の松井だけどね。よく彼の言葉で無意識という言葉を使うんだが、無意識の次元での推理とか…」
「おかしい…」
野副さんはクスッと笑った。
「おかしい?なんで?」
「ええ…何でって…例えば無意識というのは今の無意識も本来の置いては無意識ではなく、意識として統合されるかもしれないでしょ?若い頃ひどく不思議なほど興味を持って、大人になって何であの頃、あの事にまたあの人に興味を持ったかわかるじゃない。でもそこで使われている無意識は本人にとっての無意識という表現に置き換えていいと思うの。主体があってその主体にとってだけ無意識の深い言葉になっている」
野副さんは続けた。
「でも誰かがあなたは気づいていないかもしれないがあなたの無意識ってそんな事を言う人がいるとしたら、かなり傲慢な人ね。悪徳セールスマンかまた闇の占い師みたい。心理学をセールスで使うとしたら、また、別の学問として心理学というものが存在するのかもしれないけど。私達とはちょっと違うわね」
野副さんはその後も話続けた。