嘘と演技
「では、野副さん。診断に関する事ですが、医者から見て解離性同一障がいと明らかに分かっていてもうつ病を診断することはまれにでもありますか?」
野副さんは顔を上げて、
「あります。解離も言ってみれば人格障害なのです。人格障害のレッテルをはられるのはその人の人生に関わります。それよりは現に鬱症状もあるのであれば人格障害の事は伏せて、家族にも本人にも鬱病とだけ伝えることはそう稀ではありません。心の病、心の風邪であると言った方が、家族も協力的に当事者を見守ります。ですから実際聞いたわけではないのですが、彼女の病名は鬱病でも、他の診断名がある事は十分考えられます」
彼女はそう私達に丁寧に伝えた。
「では私達がここでいくら議論してみても時間の無駄だ。実際彼女の主治医に聞いてみればいいんだ。明日にでも」
松井はそう言った。
「ああ。そうかもしれない。専門家の情報を得たところでまた議論しよう。その方が効率的だ」
私もそう言って、その日は皆そこで別れた。