嘘と演技
「この間さくらさんと会った事だが」
「ああ。いいんですよ。結城さんがぼうっとしていた時のことですね。もういいんです。水に流しましょう」
「いや。それがそういう訳にもいかないんだ。こないだ言っただろ。霧島が俺に『何で事情聴取で勃起するんですか』って」
「もうその話はよしましょう。結城さんだって人間だ。ましてや彼女は美人で発育がいい。Tシャツを着てても色気がある事は私も感じました。いいんです。もうそれには触れない様にしましょう。物事は触れないでいる事も大切な時もあります。結城さんがそう教えてくれたでしょう。彼女は美人で色気がありますもんね。結城さんも人間だ。いいんです。いいんです。あの時結城さんは勃起なんてしてなかった。いまやもうはっきり覚えていません」
「いや、それが勃起していたか、していないかが大事な所なんだが…」
「変な事言わないでください」
「面会室の中での事だ」
私は言った。
「話の中で性的な話題でも出たんですか?」
霧島は優しそうな寛容な目で私を見た。
「その。彼女が下着姿になった」
「そうでしょう。そうでしょう…彼女が下着姿に…えっ?何ですって?下着姿?えっ?何それ。どういういきさつで下着姿になるんです。えっ?ちょっと事情聴取してたんですよね?結城さんが彼女に何を言ったんですか?どう触発させたんですか?」
「いや。いきなり。何の前触れもなく急に脱ぎだした」
「えっ。美人の女子高生が急に何の前触れもなく脱ぐ?えっ?何それ」
「いや。さくらさんは確か『暑いわ』と言ってから脱いだかな。一緒に気持ち良くならないと言って」
「暑いわと言って脱いで一緒に気持ち良くならないって女子高生の美人が。何それそりゃあもはやアダルトビデオの設定じゃないですか。ありえないですよ。面会室で?えっ?うそお」
「まとにかく、ポイントは別の所にある。彼女は私を無能な弁護士さんとも言っている。挑発とも取れるこの言葉には真実がまだ明らかになっていないという事をあらわしていると思う」
「はあ。そうですねえ」
「彼女は下着姿になった時こんな言葉を出した。『強姦』と」
「強姦?」
「そう。その言葉もまたオブラートに包まれた言葉ではないかと」
「どういう事です?」
「結論から先に言おう。彼女は強姦されていた。その相手は何を隠そう彼女の父、本条則明ではなかったかと」
「性的虐待?」