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嘘と演技

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 私は数日間松井と会う約束の土曜日まで別の仕事をした。離婚や業者間のトラブルの相談以前から引き受けていた養母の子供の遺産相続の裁判は実際裁判が行われ、義母の子供が勝訴した。その間も我々は本条親子らの殺人の問題、所謂、本条問題を頭から切り離す事ができなかった。松井や霧島にもさくらさんの性的虐待疑惑とその根拠について話しておきたかった。霧島とは毎日会っている。別にさくらさんと事を犯したわけではない。正直に話そう。そうしないと前に進まない。私は事務所で調べものがあると言って出て行った霧島を待った。
 来たら言おう。霧島が帰ってきたら、話そう。そう思った矢先、ドアがバンと開き霧島が勢いよく入ってきた。
 私は、
「きり…」
「結城さんついに見つけました」
「おお、霧島どうした?」
「松井の経歴ですよ。インターネットでもフェイスブックでも見つからない。彼はキャリアを隠している。片っ端から大学の卒業生の名簿を訊いても、どこの大学も教えてくれない。そう困っていた時、あるひょんな事から松井の手がかりを見つけたんです」
「どうやって?」
「はい。私も途方に暮れていてひょっとして松井は東大出身ではないか?でもその名簿は大学が見せてくれない。しかしあるもののみ公表があったんです」
「あるもの?」
「東大首席です」
霧島は続けた。
「松井は東大を首席で卒業しているんです。それで第一の就職先が分かりまして」
「第一の?複数の会社にいたのか?」
「ええ。彼は東大の文学部心理学科を首席で卒業し、その後平安生命という保険会社に就職しましたが、8か月で退職しています。その後も主に営業やコンサルティングの会社に転職していますが、どれも短期で辞めています。ある会社のものは彼の退職した後も借金の相談がきたり等、金には困っていたそうです。しかし彼は探偵の事務所を立ち上げた」
「それで生活が一変した」
「そうかもしれませんね。でも彼は所謂会社勤めができない類の人間かも知れませんね。アメフト部のキャプテンでもあり、学業やスポーツ優秀だったんでしょうが」
「そうか。そりゃあ、自身もありハングリーもあり、ああいう態度も納得がいく。それより霧島話がある」
「何ですか?」
作品名:嘘と演技 作家名:松橋健一