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嘘と演技

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「ああ、ここからは俺の推測なんだが彼女は父親から性的虐待を受けているのではと、俺は確信すら持っている。そしてその事実はさくらさんとその父だけの秘密だったが、あの箱根旅行の日さくらさんは真相を母親である真由美さんにきっと話したんだ。何でも聴いてねと言っていたし、その秘密を知った真由美さんは口止めに旦那に殺された」
「ふうん。で、どうして性的虐待を受けていると思ったの?」
「それがいろいろ当てはまるんだよ。自傷行為。不安感。低い自己評価。人から注目されるためや、人を引き付ける為に、複数の人とセックスをする。これがみんな当てはまる」
「へえ。そう。確かに考えられるわね。でも複数の人とセックスって彼女そんなことする人なの?」
「えっ。ああ。それはつまり、その、今日、俺留置所で誘惑された」
「誘惑?」
「もちろん断ったさ。変な真似止めてくれって」
「SEXの観念やら、濡れるとやらはその時話したのね?」
 由美は問い詰めるようにそう聞いてきた。
「本当何もなかったんだ。俺は必死で拒んださ」
「分かったわよ」
「それより、もし彼女が性的虐待を受けていたとしたら、いろいろ箱根からの小田急線の中での会話もいろいろ点と線が結ばれていくんだ―――
『そういう事が余計なの』
『そもそも違うのよ。私の場合』
―――これは彼女の心の病というより性的虐待さえなければ病にもならないし、この虐待が続いている限り、真由美さんの計らいも無意味という事を意味していると思う
『お母さんは私が今おかれている状況を何も分かってないわ』
『治るわけないわ』
―――これに関してはもう説明の必要もないだろう」
「なるほどね。確かにそう考えると話が見えてくる。その父親、絶対怪しいわ」
「あと一つ分からないんだけど『クリスマスなんて聞くとぞっとする』彼女はそう言ったんだがクリスマスに何が起きるんだ。多くの人の命がなくなる戦争が起こるとか」
「戦争や紛争がシリアで起きてもさくらちゃんのクリスマスイヴには何も関係ないわよ。考えすぎよ」
「じゃあ、あの言葉はなんだったんだ」
「うーん。例えば…ねえこういう事じゃない」
 由美は目をパッチリしてこう言った。
「さくらちゃんは心の病に罹ってんでしょ?」
「うん」
「ということはデイケアとか作業所とか心の病の人が集まるところに通っていた」
「ああ、そう言えばデイケアとかなんとか言ってたなあ」
「やっぱり。私聞いた事あるのよ。デイケアに登録している人も支援センターに登録しているも普段作業所に通ったり、普通に仕事をしている。でもそういう人たち。普段デイケアに通わない人たちがクリスマスになると作業所が休みになってみんなデイケアとかに集まるのよ」
「ああ、そうかもね。それで?」
「私の知り合いの患者でね。以前言っていたわ。クリスマスになると作業所や一般就労している人がやってきて、その人達みんな元気でハイテンションで自信を持ってて、見ると自信を無くしちゃうって。自分が惨めになっちゃうって。さくらちゃんの鬱もなかなか改善しなかったとしたら、クリスマスに憂鬱になると思うわ」
「なるほど、そういう事か」
「何もかも難しく考えすぎるのよ、洋平は。もっと身近に答えはある」
「今日はありがとう。由美のおかげで俺の方も頭が整理できたよ」
「いいえ。どういたしまして。ところで私達のクリスマスは?どっかおしゃれなとこで食事をしましょう」
「うん。それもそうなんだが」
作品名:嘘と演技 作家名:松橋健一