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嘘と演技

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 私と霧島と野副さんはタクシーでドトールに向かい店に入った。
 私は単刀直入に野副さんに聞いた。
「本条さくらさんについて知っている事があれば教えてください。彼女の無実を立証できるような。野副さんは先程、事件後彼女と会っていないから分からないと。それで今は何か分かりましたか?」
「まず彼女が無実かどうかは先程と同じように、はっきりとしたことは言えません。法廷で証言できるようなものは何も…」
「ただ…」
「ただ?」
「ただ彼女は無実だと思います」
「何故?どういう理由から?」
「それは…ええ…つまりカウンセラーの勘です。そうとしか申し上げられません」
「カウンセラーの勘か。その中に彼女の性格やら人を殺める様な人かどうかとかも関わってるんですよね。私が見てもとても人を殺める様な人に見えない」
「もちろんです。彼女が人を殺せる筈がありません。こんな理不尽…」
「うん。冤罪こそ最悪の理不尽だ」
「いえ…まあ、そうですね。冤罪は理不尽です。彼女が不憫で。私もう逃げたい…」
 野副さんは鳴き声の様な声を出した。
「まあ、まあ。野副さん。我々が逃げてるようじゃさくらさんを救えませんよ」
「そうですよね。逃げたら…」
「…あっもう時間だ」
 野副さんは突然思いだしたかの様にそう言った。
「時間って?」
「子供を預けているんです。近所に」
「ご主人は?」
「離婚しました。うちは母子家庭なんです」
「ああ、そうなんですか?じゃあ収入面とかでも大変でしょう。余計なお世話ですかね」
「いえ、今この常勤のカウンセラーは時間も定時で民間の学童の手当てもついて安心して働けます。だから収入面ではなんとか困らずにやっていけます。土日も休みだし。今日は特別だから近所の友達に子供を預けました。まだ小学二年生の子供なんです。こんな待遇のいい所、他にありませんよね。だから私逃げちゃいけないんです」
「そうですね。さくらさんの為にもお子さんの為にも」
 私はそう言った。
「では急ぎますので
「また会えますか?」
 私が言うと、
「じゃあ、私の名刺を渡しておきます」彼女はスクールカウンセラー野副結季花という名刺を渡してくれた。
「ありがとうございます。また何かあったら連絡します。土日が休みなんですね?」
「いえ、土日は子供と過ごすのでむしろ平日にスクールカウンセリングの予定が入らない時の方が暇なんです。直前にならないと分からないんですが。前日に明日の予定が入ります」
「予定が入らないと自由にしていいんですか?」
「はい、そうです」
「そりゃあ、言い待遇だじゃあ、それこそ逃げちゃいけない」
「そうですね。それと余計なお世話かもしれませんがさくらさんの病状の事は私よりも精神科の主治医の方がよく分かっています…麻布クリニックと言って」
「そう言うの守秘義務とかないの?」
「まあ守秘義務もありますが、場合にもよるでしょう。冤罪を放ってまで守秘義務に固執しない。きっと何か教えてくれますよ。はいこれが麻布クリニックの住所を書いたメモです。彼女は浜田院長にかかっています」
「ありがとう。人の命を救う為、我々は一致団結しなければならない。つまらない義務を破って、新しいルールを作らなくてはいけない。絆があれば、全力で必死に取り組めば、きっと道は開けるはず。では」
 私がそう言って、野副さんと別れた。
 横にいた霧島がボソッと冷淡に
「結城さんいいこと言いますね」
 また先程の間の悪さがよみがえった。
作品名:嘘と演技 作家名:松橋健一