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嘘と演技

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 私は守秘義務に関して近しい仲、あるいは仕事上の関係の相談のため話すことがあるという事の許可を彼女自身からもらった。彼女はTシャツとズボンをはいて我々はその部屋から出た。
 私は野副さんと目が合い、どういう訳か部屋の中での事が頭をよぎり、赤面してしまった。
 それでも野副さんに、
「あとで話を聞かせてくれませんか?外で待ってもらえます?」
 そう聞いたら、
「はい。では待っています」
 そう答えた。さくらさんは守衛に連れられ我々の場から立ち去り、霧島と私二人になった。霧島は私に近づき、誰もいないが声を潜めて、
「それでどうでした?何か聞き出せましたか?」
 そう聞いてきたが、
「いや。それが何も」
「何も?さくらさんは正気のさくらさんだったんでしょ?」
「ああ。まあ正気だったかな?」
「それで何でもいいからヒントになる様な事は?」
「それが何も分からなかった」
「結構長い時間いましたよね。内容は分かりませんでしたが話もしていたでしょ。声がしてた。それで何も手がかりがないんですか?」
「そうなんだ。何も手がかりはない」
 霧島は訝しげに私を見て、二人で正面玄関の方を歩いて行った。私は間の悪い気分が黙っていた。
 霧島は唐突に私に、
「部屋を出てくる時、結城さん勃起してましたよね。何で聞き取りをしていて勃起するんですか?」
「そうか?してたか?まあ今朝だからな。あっ、もう昼か」
「それで正気のさくらさんは殺害に関しては何と言っていましたか?自分でやったか、真犯人が誰かとか、口をつぐみましたか?その質問はしたんですよね?」
「あっ、しまった。聞くのを忘れてた」
「忘れてた?えっ?犯人が誰かを聞くのを忘れた?冗談でしょ?あの長い時間、聞いて、えっ?嘘?何やってたんですか結城さん。そんな事ってある?」
「いや聞いたかな?確かに最初に聞いたような…」
「で彼女はなんて?」
「どっちだったかな」
「ええー?」
「そうだ、彼女は自分でやった。そう言った。弁護は頼む。宜しくお願いします。でも無実は証明できない。なぜなら私がやったから。そう言ったんだ。そうだった。そうだった」
「結城さん大丈夫ですか?」
「いや、悪い。大丈夫だ。うん確かに彼女が自分でやったというから収穫がなかったんだ。うん。俺はちゃんと聞いていたぞ。うん」
「ところで口紅は、彼女は何で口紅なんかを野副さんに頼んだんでしょうかね。口紅は凶器にはならない」
 霧島がそう言ったので私は、
「確かに口紅は凶器にはならないがある時最強の凶器にもなる」
「えっ?今なんて?」
「いや、何でもない」
 そう言った。霧島はまた訝しげに見ていた。
 留置所の正面玄関を出て、そこに野副さんは待っていた。
「野副さん。待ってくれたんですね」
 私は彼女に声をかけた。「ええ」と彼女は言い、
「お話がしたいんです。どこか喫茶店でも。そうだタクシーからさっき見たんです。近くのドトールに向かいましょう」
 
作品名:嘘と演技 作家名:松橋健一