嘘と演技
さくらさんはもう部屋で待機しているそうだ。その部屋と思われる所まで行くと、守衛が、
「この部屋です」
そう言った。野副さんが
「まず私が一人で」
そう言ったので、
「うん。そうして下さい」
その時守衛が野副さんの右手の方を見て、
「ちょっと待った」
と、野副さんを制止した。
「右手に隠し持っているものを見せてください」
「これは…」
守衛に見つかり野副さんはばつが悪い表情を取った。
「とにかく右手にあるものをここに出して!」
彼女は右手に握っていたものを我々の前で見せた。それは口紅だった。
「ここに来る前彼女からの伝言として留置所の受付を通して聞いていたんです。さくらさんは
『もし私の所へ来ることがあったら口紅を持ってきて。薄いピンクの自然な色を選んで』
そう私に伝えたんです」
「とにかくその口紅を調べさせてもらおう」
守衛はそう言って口紅をくるくる回し、
「何て事のない普通の口紅だ。でも口紅はカウンセリングに必要ないでしょう?」
「とにかく私は彼女に頼まれたので、その通りにしたいんです」
野副さんは言った。私も、
「私からもお願いだ。彼女には何か考えがあると思うんだ。凶器にもならないだろうし、ここを逃げる道具にもならない」
守衛はしばらく黙って、
「まあ、いいだろう」
そう言うと守衛は野副さんへ
「中へ」
そう促した。野副さんが中に入っていった。
1分が経った。
3分が経った。
10分、20分が経った頃、野副さんは中から出てきた。