嘘と演技
我々が読み上げたのを察すると有馬という秘書の女性は、
「理事長からは、この封筒の中にある事以外は私も何も存じ上げておりません。確かにお渡ししました。ではこれで」
霧島は、
「ちょっと待ってください。じゃあ、いつならアポが取れるんだ?」
「何分忙しい方なので、いつとははっきりは…では失礼します」
彼女は立ち去ってしまった。
私達は取り残され、そのビルを跡にした。
「空振りだな」
私が言うと、
「でもこれでますます本条則明がクロだっていう事がはっきりしましたね。彼はこのアポを逃げたんです。海外に行ってまで」
「俺もそう思う」
私が途方に暮れている時、霧島がこう突然言った。
「それはそうと私達自体のアポではないのですが、今日はさくらさんにとってある特別な日なのです」
「何があるんだ?」
私が聞くと、
「この間東京英和に行ったでしょう。その時、校長と会った。彼は何か隠していた様だが、彼女にある看護師でもあり、精神保健福祉士でもある常勤のカウンセラーがついていてその人のカウンセリングを受けていたという事実はつかめた。
「ああ、そうだったな」
「そのカウンセラーが留置所に行くのです。さくらさんと話をしに。さくらさんは精神疾患を持っていて、公にはしてない様ですが、窓越しのカウンセリングではなく、いったんその留置所から出て敷地内ですが、一室を借りて、カウンセリングを受ける事ができるのです。逃げ無い様、部屋の外には守衛がついていますが、裁判に関わる大事な事なので、本人から本当の話を聞き出すための配慮の利いた対応です」
「それは大きな収穫を得られるチャンスかもしれない。是非行こう。彼女が…彼女がもし本当の証言をしてくれればそれだけですべて片付くんだ。彼女は知っている筈だ。何者かが本条真由美さんを殺したその現場を」
「そうですね。本条さくらさんが本当の事を言ってくれれば、ただそれだけなのに」
「そうそのただそれだけが何故か…」
私達は一旦黙り込んだが、
「とにかく行こう。さくらさんのいる留置所へ」
「はい。それとカウンセラーの名前は野副結季花と言います。行きましょう」