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嘘と演技

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守秘義務にもかかわる大事な話だから、定員の人には話が終わるまで、何も運びに来ないでくれという手筈を取ったそうだ。
 松井は言った。
「大体の話の流れは聞きました。本条さくらさん。その彼女の父、それと校長、彼は何か隠していますね。比嘉あやめさんというさくらさんの親友、彼女も重要参考人です。大きなヒントになる。少女と言えど彼女の意見も参考にしなくてはいけない」
「勿論参考にしています。すべての人の意見や不自然な行動すべてを判断材料として全力で真実を究明しているつもりだ」
 私がそう言うと松井は、
「果たしてそうかな?」
 その決して友好的でない発言をした。
「まあ、いいでしょう。私があなた方から依頼された。指示して頂いて大変光栄です。ありがとうございます」
 松井は演技とも取れるオーバーなリアクションで私達にお辞儀をしている。
「ただ、あなた達は今こう思っている。探偵?彼らに何ができる?探偵の普段の仕事と言えば夫の浮気調査、迷子の猫さがし、彼らは殺人事件に関して全くの素人だろうとね」
 松井は熱弁をふるう大学のカリスマ講師のように話してそのまま続けた。
「でも一つさくらさんの例を挙げてみよう。あなた達はさくらさんが真実を知っているのにどういう訳か彼女は狂人の様に変貌してしまって、本当の事を話さない。このままでは冤罪になってしまう」
 松井は一旦視線を私と霧島に向け、じっと何かの確認を取るようなしぐさをした。
「そんな馬鹿な事はありますか?」
 松井は感情をこめてそう言いまた続けた。
「自分が狂ったら自分が損をする。自分が正気でないから自分が罪を背負う」
 彼は悠然とした態度で依然として続けた。
「利害の対立という言葉を聞いたことがありますか?ないことないでしょう。すべての行動に意味があるのです。すべての人は利害の対立の中、自分に一番有利な行いを自然と取っているのです。さくらさんも例外ではない。でも彼女はこのままでは冤罪になってしまう。まあここまでは素人でもできる範囲の推測でしょう。現に辻褄が合わない。」
「私の場合は利害の対立についてさらにもう一歩踏み込んだ次元での話を考えている」
 松井はまた一息おいて続けた。
「アドラーという心理学者の無意識というとらえ方を知っていますか?さきほど私は言いました。浮気調査をしている者が殺人事件に関してと」
「あの言葉にも意味があります。確かに私は何度も何度も浮気調査をしている。その一つの例としてお話をします」
作品名:嘘と演技 作家名:松橋健一