大坂暮らし日月抄
闘いに必要とする道具類はすべて、大きな一枚の布になる、忍び袴に包んで背負い、道を急いだ。中に鎖を仕込んでいる “振り杖”は、手に持った。
どの地点で闘うかは、分かっている。その要所に、武器道具を隠しておく。隠した場所は確実に覚えておき、武器を素早く手にすることも、技のうちである。それらすべてを身に着けていては、敏捷に動けるはずはない。おそらくリュウも、そうしているはず。その際、偶然にもリュウの武器を見つけたならば、移動させておく。
夕暮れまで激しく降り続いていた雨も、ようやく小降りとなった。まもなく、止むであろう。普段は、穏やかな滝川。周辺から流れ落ちる水を集めて、水量も勢いも、徐々に増してきている。
梅雨の季節を選んだリュウを呪いながら、忍び装束に着替えた。
胸には晒を、重い鎖帷子の代わりにして、何重にも巻いた。足底に綿を厚く入れた、足袋。手甲の左手には、攻撃と防御を兼ねた “棒剣” を仕込んでおく。装束に付いているそれぞれの袋には、薬類や、三枚の手裏剣、吹き矢を入れ、火種の入った “打ち竹” は、腰紐でしっかりと固定した。
忍び刀はどうするか迷ったが、置いて行くことにした。動きやすくしておくことが、第一の場面である。
汗の臭いと汗自体が命取りになることもあって、汗を掻かない修行は積んでいるが、それでも、すでに汗ばんでいる。
最後に、髪をまとめて、気合を入れて縛った。その上から、頭巾で包む。
トントン、と軽く跳ねた。重ければ、手裏剣を減らさなければならないが、大丈夫。
忍び刀と振り杖は、途中、それぞれ別の場所に隠した。
香落渓へと続く峠。
この付近は、大きな木が、鬱蒼と茂る森を成しており、人の通る道はない。静かに跪いていても、ねっとりとした汗が体を伝い落ち、空気は、湿気を含んで、重く感じられる。真の闇が、周囲を包み込んでいる。
如何程の刻を、こうして待たねばならないか、定かでない。
時折、梟の声が聞こえてくる他は、不気味なほどの静けさだ。