大坂暮らし日月抄
小雪は、祖母様の言づてを、そのままに伝えた。
「平野様の御厄介になることは、これ以上かないませぬ。大坂には他に頼る人もなく、是非とも、わたくしを置いて下さいませ。出雲の神様のお引き合わせであったとしても、夫婦になろうとは思ってはおりませぬ故」
「裏長屋の暮らし、何もかも筒抜けの暮らしが、あなたに耐えられましょうか。それに・・・」
小雪は微笑んでいる。
「それに、部屋が・・・その、夜具はひとつ」
「分かっております。そうそう、もう届いてるかも。さっ、帰って夕餉の支度をいたしましょう」
晴之丞は、呆然とした面持ちで腕を引かれた。
小雪は、火熾しに薬玉を使えば楽であるのだがそういう訳にはいかないのか、そっと溜息をついて食事の支度の算段をしていた。