大坂暮らし日月抄
「ここ一年の間に住み始めたおなご、ねぇ・・・う〜ん・・・おいっ、かかぁっ、最近になって見かけるようになった女がおるか、知ってるか」
「ぁああ、ほんれ、時々買い物にやって来るっとかのぉ、近頃ンなって見かけるようなったぁ小柄の」
「そうやった、あの山ん中に、いつのまにやら簡素な小屋がおっ建っとるって、権さんが話しとったわい。そこにおるんは、それはそれは美しい女性(にょしょう)の姿。狐に違えねぇ、って」
「その権さん、とゆうのは?」
草鞋を脱いだ足を洗いながら晴之丞は、宿屋の夫婦に、小雪に関することの情報が得られないものかと問いかけたのである。
「樵だ。炭焼いとる。ここ数日は町に積み出しに行っとるから、おらんがな」
「その山の中に住んでいる女が、買い物に時々やって来る小柄な女ということだな。どんななりをしていた?」
「んだなぁ。ありゃぁ、野性的な山娘、っちゅうとこだが、なかなかの上物だ」
「フン、あたしには及ばないけどね」
「ああ、オメェの、目と鼻と口の形と場所を、ちと変えればな」