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てっしゅう
てっしゅう
novelistID. 29231
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「もう一つの戦争」 敗北と幸一の運命 8.

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「裕美子、美幸を頼む。今度お前と会えるのは戦いの無い平和な向こう側だな。
こんな俺と結婚してくれてありがとう。美幸は二人の宝物だ。決して死なさないでくれ。
おれは山本司令官に呼ばれた気がする。幸せすぎるからもういいだろと。お前は命を粗末にするなよ。もうすぐこの戦争も終わる。おれはそのために命を捧げるのだ。日本国はアメリカと並ぶ大国となって生まれ変わる。その時はお前や美幸がきっと幸せに暮らせているだろう」

夫はすべてを見通していたような言葉を言った。
裕美子は自分が昭和十六年に未来からやってきた理由を見つけたような気がした。
祖母から聞かされていた自分の父親、幸一の真実を見て来てほしいと託されたのだろう。
だとしたらしっかりと美幸の記憶に幸一の姿を染み込ませておかないといけない。
もう現実は変えられないけど、お祖母ちゃんの記憶は残されて未来を迎えるだろう。

自分が長く生き延びればそれが叶う。
戦争が終わったら東京に向かうのだろう。それを辞めてここで暮らせばどうなるのだろうか。そんな気持ちが基地に向かう夫の背中を見ながら心を支配するようになってきた。

その日は基地の前まで夫を見送りに出かけた。もう基地に残された最後の戦闘機で出発するのでここも閉鎖されるかもしれない。
幸一が大切にしていた修理を終えた零式艦上戦闘機が格納庫から引き出され、エンジンがかけられた。
黒煙と同時に油の匂いが立ち込め、基地に居た数人の見送りの兵士から拍手が起こった。