からっ風と、繭の郷の子守唄 第6話~第10話
「市街地から10分も走れば、赤城山のシンボルの、真っ赤な大鳥居へ出る。
そこから全開で3分も行くと、ラブホテルと蕎麦屋やうどん店の一帯へ出る。
赤城山南面での、唯一の休憩地帯だ。
そこから先は、手つかずの大自然の中へ飛び込んでいく。
自然保護の規制を受けているので、建物は一切なくなる。
現役で走っていたころなら、山頂最高点の1400mまでおよそ、
15分もあれば駆けのぼれた」
「22キロの急な山道を、15分余りで駆け上る?・・・・
いったいあなたは何キロで、この山道を駆け登っていったのさ」
「さぁ・・・運転が忙しくて、速度を確認する暇が無かったからなぁ。
平均時速にして、80から90キロくらいは出ていただろう。
30分もあれば楽々と、山頂と麓を往復することができた」
「あきれた・・・・康平クンは、もともとは暴走族なの!」
「そう言う表現も、世間には有る。
だが俺はただ純粋に、バイクを走らせることが大好きだっただけだ。
一般車がほとんど通らない、深夜に限っての走行だ。
赤城山の南面を一気駆け上がっていくこの道は、もともとは有料道路だった。
路面のコンディションが良かったため、走り屋には人気の道だ。
夜になると、山頂方面から下ってくる車は皆無になる。
対向車を気にせず、思い切り全力で駆け上がることができる事から、
ここは数少ない”走り屋”たちの聖地になった。
昔は2輪車が全力で走った聖地だが、いまは4輪のドラフト族が全盛だ。
いつの間にか、タイヤを滑らせて山道をかけ下る連中が主役になった。
金曜日の夜になると、ギャラリ―がたくさん見物に集まってくる。
時代が変っても、暴走族は消滅しない。
2輪車が消えたと思ったら、4輪がタイヤを滑らせて登場したからね」
「康平クンは、もう、暴走しないの?」
「後部座席に高価な、台湾ワインを積んでいるんじゃ無理がある。
おまけにこのワインは、油断すると、見透かしたように俺に反撃してくる。
どう考えても今日は、安全運転を優先するべきだと考えている」
「うふふ。康平クンらしいわね。
ワインの輸送には、くれぐれも気をつけて下さいね。もと暴走族くん」
作品名:からっ風と、繭の郷の子守唄 第6話~第10話 作家名:落合順平