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からっ風と、繭の郷の子守唄 第6話~第10話

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 「さてと・・・・
 それでは本日、後部座席にお座りの上質で、上等な台湾からのワインさん。
 運転中は、なるべく運転手さんと密着するような姿勢を取ってください。
 街中なら普通に、楽な姿勢で座っていても、何の問題もありません。
 しかし山道に入ると、話は別です。
 2輪車の2人乗りは、後部座席の応援を必要とします。
 康平は生まれながらの、山育ちです。
 山道に入った瞬間から、めっぽう速くなるという、
 あきれた性癖を持っています。
 スクーターを運転する者と、後部座席に乗る同乗者が一体化したとき、
 ビッグスクーターの、本来の性能が発揮されます。
 一体化するために、カーブに入ったら、内側方向へ身体を傾ける。
 それだけで快適なツーリングが楽しめるでしょう。
 じゃあな康平クン。お嬢さんを守ってやりながら、慎重に行けよ」

 ポンポンと康平のヘルメットを叩いた店長が、バイクショップの中へ
消えていく。
バケットタイプのシートは、ライダーと同乗者の腰をしっかりと包み込みこむ。
座っただけで、安心感と安全性が実感できる。
地面に足を着く時の高さも、充分すぎるほど考慮されている。
(なるほど。高からず低からずの丁度良いシートだ。)
足を着くための配慮も充分だ。これなら、満足度の高いツーリングが
出来そうだ)

 軽くスロットルを開けると、フォルツァがスムーズな反応をみせる。
滑るようにビッグスクーターが走り始める。
爆発的な加速性能を内部に秘めたまま、60キロの巡航速度へ
いつのまにか到達していく。
あっというまに、バイクショップの店先を離れていく。

 路地を一つ曲がった瞬間、ビッグスクータが前橋市の中心部へ踊り出る。
軽いクッションで、歩行者用の舗道を乗り越える。
康平が乗り入れた道は、ケヤキ並木の2車線の道路。
目の前に現れる坂下のバス停は、赤城山麓を走る上毛鉄道の中央前橋駅と、
JR前橋駅を結んでいるシャトルバスの、数少ない停留所のひとつ。

 ポンポンと後部座席から、貞園が康平のヘルメットを叩く。
会話をしたという合図だ。
貞園が必死に何かを問いかけているが、康平のフルフェイスタイプの
ヘルメットは、肉声を聞きとる事ができない。

 メーターの隣りに、オーディオ機器が組み込まれている。
その横に、携帯電話の受信装置も付いている。
操作用の液晶画面の脇に、『会話用』と書かれた赤いスイッチが見える
(こいつで、会話ができるのかな、もしかして・・・)
康平が赤いスイッチをオンにする。

 インカム(会話のできる小型の内部伝達装置)付の康平のヘルメットが、
後部の声をいきなり伝える。
大音響といえる貞園の声が、ヘルメットの中でさく裂する。
「あっ・・・」康平が、驚きの声をあげた次の瞬間。
今度は後部座席の貞園がヘルメットの耳の部分を両手で抑えたまま、
あまりの音響に、そのまま苦悶の悶絶を見せる・・・・