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からっ風と、繭の郷の子守唄 第6話~第10話

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 あははと、売店の男が大きな声で笑い出す。

 「康平。なんなの、その・・・・遠火の強火っていうのは」

 「強い火力のまま、遠い距離で焼き上げる。
 炭の持っている遠赤外線の効果で、内部からじっくりと焼き上げる。
 素材の味を損ねず、ふっくらと甘く仕上げることが出来る。
 こいつは俺の同級生で、もともとテキ屋稼業で稼いでいた男だ
 焼きかたにも、長年の年季がはいっている」

 頭にねじり鉢巻きをした、真っ赤なTシャツの男がニコリと笑う。
顏は怖いが笑顔には、なんともいえない愛嬌がある。
康平が『ようっ、久し振り』と片手を上げる。
「おう。お前も元気だったか」と男も、嬉しそうに康平に手をあげる。

 「気をつけろよ、貞園。
 こいつ。こう見えても、愛妻と可愛い美人の双子の父親をやっている。
 だけど生まれつき、女にはすこぶる、手が早い。
 君の様にスレンダーで、かつ胸の大きい女性には、きわめて執着する
 タイプだ。
 口車に乗るな。後で泣かされることになる」


 「いきなり何だよ、康平。
 久し振りに顔を出したと思ったら、いきなり嬉しくないアドバイスかよ。
 俺んちの可愛い双子の娘たちも、まる2歳になった。
 いつまでも、悪さが出来るかよ。
 いまじゃ改心して、峠の焼きトウモロコシ屋のオヤジに収まっている。
 それにしても、お前、腕を上げたなぁ」

 「いつになく、早かったぞ、お前」と康平の顔を覗き込む。

 「良い音をさせながら、登ってくるライダーが居ると直感した。
 どんな奴だと期待しながら待ったら、なんと2人乗りの
 スーパースクーターだ。
 しかし、相変らず、腕は良いようだな。
 遠くから聞いていても、エンジンのふける音が全く違う。
 いまでも赤城の最速の腕は、衰えていないようだな。康平」

 「えっ・・・・やっぱりそうなの。
 そんなひどい暴走族だったの。この人は、大昔から」

 「俺も、自信のある赤城の走り屋のひとりだった。
 だが、こいつにはまったく歯がたたなかった。
 カーブを5つも抜けるころにはもうこいつは、はるか彼方に消えている。
 スピードの次元が、ケタ違いなんだ。
 あのスーパースクーターも、例の店長が、面白半分に改造したものだろう。
 でなきゃ、長いストレートから、ここまでのカーブが連続する3キロを抜けて
 最速タイムで、登って来られるはずがない。
 お前、気が付いていたのか。いままでの、最速のタイムだぜ」

 「最速タイム? わざわざ測っているのか。お前」