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からっ風と、繭の郷の子守唄 第6話~第10話

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 「土日なら観光客たちが来るから、商売にもなる。
 だが、平日はすこぶる暇だ。
 たまに物好きな暴走族が、長い直線を全速力でぶっ飛ばして来る。
 カーブの区間を抜けて、ここまでを全開で登ってくる。
 興味半分に計測をはじめたら、いつのまにかクセになっちまった。
 だが、どいつもこいつも下手くそな連中ばかりだ。
 バイクの性能はすこぶるいいが、腕がダメだ。
 どんなに頑張ったって、最速のタイムなんか出るもんか。
 ところがだ。今日に限って、久々に良い音を響かせて登ってくる奴が来た。
 俺は、直感的にピンときた。
 第1カーブの立ちあがりのエンジンの音も、加速に入るときのタイミングも
 ドンピシャリで、最高だった。
 こいつは期待ができそうだと、本気でタイムを計り始めた。
 だがここに着いたのがスクターとは、驚きだ。
 女を乗せたスーパースク―ターが、赤城最速のタイムをたたき出したんだ。
 びっくりしたのは、こっちのほうだ」

 「へぇぇ。エンジンの音を聞いているだけで、あなたは、
 オートバイがどのあたりを走っているのか、ちゃんと見当がつくの?」


 「当たり前だぜ。お姉ちゃん。
 ここは、ガキの頃から走り慣れた、俺のホームグランドだ。
 あの直線を何分で走り、どれくらいの速度で第1カーブへ突入していくかで
 運転している人間の力量を、判断することができる。
 まず第1カーブを、最小限のブレーキ操作で乗りきる。
 あとにつづくカーブを、速度を落とさずどう走るかでタイムが決まる。
 エンジンの音をきいていれば、俺にはそれがわかる。
 下手くそな奴にかぎって、カーブの手前で目一杯のブレーキを踏む。
 それを取り戻そうとして、今度はカーブの立ちあがりでアクセルを開ける。
 ジタバタ苦戦しながら、嫌がるオートバイをいじめぬく。
 だが、本当に早い奴は違う。
 滑らかに、流れるようにオートバイを操作する。
 減速は最小限度だ。カーブの出口からもう次のカーブのために、
 最適なラインに車体を乗せて、加速をしながら駆け抜けていくんだ。
 どうだ、お姉ちゃん。
 すさまじい速度で、赤城の坂道をすっ飛んできたというのに、
 康平の背中で、安心して、ツーリングを楽しめただろう?
 上手い奴の運転と言うのは、そういうものだ」

 「たしかに、風を切るのが楽しかったわ。
 恐怖心なんか、まったく無かったもの・・・」

 感心して聞いている貞園を尻目に、赤いTシャツがひょいと、
屋台の裏側へ消えて行く。
何が有るのだろうと貞園が覗き込むと、抱えきれないほどのトウモロコシを
持って、赤シャツが元気に戻ってきた。


(11)へつづく