からっ風と、繭の郷の子守唄 第6話~第10話
標高700メートルを超えるあたりから、山道に、75のカーブがあらわれる。
第1カーブまでの4㎞あまりの直線を、康平は1分30秒で
駆け抜けてしまう。
「わあぁ、速いぃ・・・・でも、とっても、気持ちが良い~」
加速とともに、胸が潰れてしまうほど貞園が密着してくる。
貞園の両腕から、また新しい力が加わってくる。
スパースクーターは、100キロの速度を越えても姿勢が安定している。
安定したまま、全速力の走行をどこまでも続けていく。
最大距離をほこるストレートの終点は、あっけないほど簡単にやってくる。
急ブレーキはかけない。康平が減速動作を静かに繰り返す。
速度を落とし過ぎると、カーブを滑らかに回れない。
標高820メートルにある第一カーブを、苦もなく康平がクリアをしていく。
ここから小刻みの、カーブ区間がはじまる。
ここからはじまるカーブの区間は、右へ左へゆるやかな旋回を繰り返す。
手つかずの自然林の中で、徐々に高度をあげていく。
リョウブやコナラ、カエデ、シャラといった広葉樹林が周囲に広がる。
生え抜きの落葉樹に混じって、赤城山の代名詞でもある山ツツジの低い木が、
華やかに目立ってくる。
赤城山には、たくさんの山ツツジが咲く。
屈指のツツジの名所として知られ、 5月の上旬から7月上旬にかけて、
全山で14種類、およそ50万株のツツジが咲きほこる。
最高到達点にひろがる白樺牧場は、レンゲツツジの絶景地になる。
レンゲツツジの木は、高さ1~2m。
ラッパのような形をした朱紅色の大輪を、密集して枝につける。
10万株の大群落が、6月の上旬~下旬にかけて燃えるように牧場内にひろがる。
この時期になるとたくさんの見物客で、渋滞を生む
登りも下りも車が停止したまま、一日中、身動きできない状況におちいる。
レンゲツツジの大群生を守るため、あえて牧場がつくられた。
放牧された牛たちは、木の全体に毒があるレンゲツツジは食べない。
朝から夕方までツツジの周囲の草を食べ、肥料を撒くという仕事している
おかげで、見事なツツジの群生が保たれている。
レンゲツツジに限らず、ツツジ科には、有毒な品種がある。
花をつまみ、蜜を吸ったりする遊びはやめておいたほうが、無難だと
昔からいわれている。
カーブ区間に突入してからさらに、3キロ余り。
登り続けてきた道路が、一時的な平たん部分にさしかかる。
坂道を登り続けてきたために、平たん部分にいきなりさしかかると
多くの人が、下りに入ったと錯覚を起こしてしまう
平たん部分が、大きく右へ旋回する。
旋回が終えた瞬間。目の前が大きく開ける。
標高1017mに位置している箕輪(みのわ)・姫百合の駐車場だ。
出発点からここまで、15.1キロ。
康平のスーパースクーターが、速度を緩めていく。
南端に見える焼きトウモロコシの屋台に向かって、徐行で進んでいく。
「お待ちどう、貞園。
赤城の峠の名物、焼きトウモロコシの売店に、ようやく到着しました。
腹一杯になるまでおごりますから、こころいくまで堪能してくれ」
「こら。康平。
暴走するなと、あれほど店長に言われたくせに、いったい
何キロまで飛ばしたのさ。
おかげで自慢のワインが、半分以上も、こぼれちゃっいました。
ん、もう。まったく。責任とってよね!」
「すまん、すまん。
慣らし運転のつもりだったが、久々なもので、つい本気になった。
しかし。赤城の登りは、この先が本当の本番だ。
ここから、標高差にして400m。
距離にして、約7キロが、赤城の登りの最大の難所になる」
「じゃあ、これからが本番なの。
では、いくさの前の腹ごしらえと言う訳ですね。
よし、こぼれたワインも注ぎ足して、自慢の焼きトウモロコシを
堪能しましょ。
最大の難関を前に、まずは、気力と体力を充実が先ですね・・・・
もと暴走属の康平クンの、お・ご・り・で」
作品名:からっ風と、繭の郷の子守唄 第6話~第10話 作家名:落合順平