からっ風と、繭の郷の子守唄 第6話~第10話
旧料金所のクランクしたカーブを抜けた直後。
広大にひろがる秣場(まぐさば)の中を、道が一本、はてしなく伸びていく。
突き当りにあらわれるのが、1番カーブだ。
1番カーブまでの直線は、かるがると4キロを超える。
最長の直線に乗り込んだ康平が、待っていましたとアクセルを開ける。
「行くよ。覚悟はいいかい?」と、後部座席の貞園を振り返りる。
気配を察した貞園が、生唾をひとつ呑み込む。
覚悟を決め、康平の腰に回した両腕にせいいっぱいの力をこめる。
そのまま身体を康平の背中へ預けて、密着したかたまりに変っていく。
アクセルが全開にされたその瞬間。
スーパースクーターは、今まで隠していた爆発力をいっぺんに吐き出す。
軽く後輪をきしませたあと、弾かれたようアスファルトを蹴る。
登りをものともしないスーパースクーターの猛烈な加速は、康平の背中へ
張り付いた貞園を、うしろへ引き剥がそうとするほど強烈だ。
(あら。強烈すぎる加速だわ。お願いだから、わたしを置いていかないで)
全身に力をいれた貞園がふたたび、ぴたりと康平の背中へ張りつく。
ゆるやかに右へ曲がりながら、道路はさらに前方に向かって伸びていく。
草原が続く中。康平のアクセルはゆるまない。
期待に応えたエンジンが、最大値に向かって回転数をあげていく。
あっという間に、前方を行く乗用車に追いついてしまう。
追いついてしまった康平は、ためらいも見せず、反対車線へ進路を変える。
さらにアクセルを開け、一気に乗用車を抜き去っていく。
作品名:からっ風と、繭の郷の子守唄 第6話~第10話 作家名:落合順平