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レイドリフト・ドラゴンメイド 第7話 星を超えた守り

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 いまは足を分厚い石膏でできたギブスで固められている。
 その車椅子をスバルが押していた。

 三種族には、これにも驚愕した。
 自分たちにとっては大変な脅威である女神が、人間たちには怪我人がかばってもおかしくない存在なのか?!

 ボルケーナは声で答える代わり、触手で砲塔のあった辺りをまさぐった。
 その中から、いくつか砲弾を見つけ出し、それをつかんだまま天上人に叩きつけた。
 雲の中で爆発が起こり、破片が動かない雲に降り注ぐ。
 次の瞬間、天上人の雲は形を失い、雲が雨になる様に地に落ちた。

 ブロックアウトボム。
 電動率の高い炭素繊維、カーボンナノチューブを、まき散らし電気製品をショートさせる。
 今は繊維を天上人の体内に、まいた。
 体内のエネルギーの流れを乱された天上人は、これで行動の自由はかなり奪われた。
「船を切り離すよ! その前に、あのステージ裏にメイトライ5達の装備を回収して! あんた達には、この船の護衛を命じます! 」
 次の瞬間、扇状に広がったボルケーナの触手が横なぎにふるわれた。
 人間サイズの者も、巨大化した者も等しく、触手に捕らえられた。
 三種族はまとめて外へ叩き出され、坂道に叩きつけられた。
 
 つい先ほど、大勢の儀仗に見送られて通ったレッドカーペット。
 そこに今は三種族しかいない。
 マークスレイが外に出ると、その後ろで巨大な隔壁が降りて中と外を隔てた。

 外の様子は、すっかり様変わりしていた。
 飛行場には重い戦車のキャタピラが削った跡が長々と残り、大砲の音が引っ切り無しに聞こえる。
 目標である山脈には、隠されていた要塞が次々に燃え上がり、醜い黒煙を上げていた。
 彼らの頭上を、細長い機体の戦闘ヘリコプターの編隊がやってきて、機関砲やミサイルを放つ。
 そして、その隣にいるのは……。

 その時、砲撃が優太郎の背中にも始まった。
 彼だけではない、巨大化した種族たちは次々に爆炎によってカーペットに押し倒された。
 視界の隅で、並んだ10式戦車が砲撃するのが見えた。
 巨大な種族が軒並み倒されると、ようやく砲撃は終わった。
 液体化された天上人は衝撃で散り散りになったが、彼らは元々そういう種族だ。
 
 空から風を大きく孕む音ともに何かが降りてきた。
 その何かが、優太郎の羽にのしかかり、がっちりとつかんだ。
 それは、優太郎と同じ太い3本指と、かかとから短い1本の指が伸びた、竜の足だった。
 ルルディ騎士団の、揺らめく黒い炎の鎧をまとった飛竜隊が、三種族の拘束に当たっていた。
「お前達! やめろ! 同じ竜ではないか!? 」
 優太郎はそう訴えたが、やって来た竜から放たれるのは獣じみた鳴き声だけだ。
「彼らに、話をする能力はありませんよ」
 そう侮蔑を込めて答えたのは、飛竜の上で手綱を握った竜騎士だ。
 優太郎の羽には一騎づつ、抑え込んでいる。
 騎士たちの鎧に変化が生じた。
 一度、天に大きく燃え上がったかと思うと、次は雨のように、引力に惹かれて落ちてきた。
 黒い粘液となった炎はしかし、三種族に張り付いたまま動かない。
 これまで、かろうじて立っていた者たちにもまとわりつき、生き物のように引き倒していく!
 
『無駄な抵抗は止めろ! 我々は不定形な天上人にも対応している! 』
 スピーカーの声とともに、自衛隊も近づいてくる。
 機動戦闘車を盾に、自動小銃の89式小銃を構えて近づいてくる。
 背中に、小さなガソリンエンジン音を響かせる機械を背負っている隊員もいた。
 動力散布機という、本来は粒状の肥料や薬剤を畑に撒くための機械だ。
 自衛隊では疫病などを防ぐため、消毒薬をまくために使っている。
 今回入っているのは、液体化させた天上人にとどめを刺すための物だ。

 三種族には、そんな細かい事情は分からなかった。
 だが、自分たちに脅威が迫っているは分かった。
 しかも、それは長い年月をかけて隙もなく、鍛えられた物。
 それを悟ったところで、挽回できるチャンスなどすでになかった。
 これまで強大だと、この星にふさわしいと誇ってきた力が、何の価値もなくなる。
 頭が真っ白になる。

 隔壁のとじたパーティー会場に変化が生じた。
 それは幅200メートル、高さ60メートル、幅30メートルはある赤い長方体。
 それがゴムのように揺れ動いたかと思うと、会場に向かって左方向、100メートルほど向こうから白いとがったものが飛び出した。
 とがったものは、さらに大きな流線型の物の先端だった。
 上半分が平らになっていて、人が歩き回れるようになっている。
 太い部分にはたくさんの窓がついており、大砲など武装の類は見えない。
 全長200メートルにわたる、その後部が見えてきた。
 先端部のようにとがり、その上半分が平らになっている。
 異世界ルルディの豪華客船ルルディック。
 それは翼も、音もなく空中にふわりと浮かぶと、へさきが空気を切り裂いた風だけを残して、空の彼方へ飛んで行った。

『あなた達は、福岡という地名を知っていますか? 』
 PP社のパワードスーツ部隊も、銃を構えて包囲に加わった。
 その内の一体がスピーカーで話しかけている。
 社長、真脇 応隆の機体だ。
『日本にある都市の名前です。今から2年ほど前、その都市はスイッチアからの侵略を受けました』
「いったい何を言っている? 」
 優太郎たち三種族は、この星の自然環境に隠れながら、人類の様子を監視していた。
 だが、応隆が言うような様子はなかったはずだ。
『ご存じなくても無理はありません。福岡にやって来たのは、今より未来のスイッチアから来たことがわかっています』
 その時、一人の叫び声が応隆の声を引き裂いた。
「弟が! 福岡にいたんだ! 」
 包囲網の奥から、一人の自衛官が叫んだのだ。
 儀仗の一人だった。
 今は制服も埃と煤で汚れ、手にした銃も89式に変わっている。
「うわああああ!!! 」
 獣その物の叫びを上げて駆け寄るが、たちまち周囲の隊員に阻まれた。
「はなせ! はなせ! 」
「馬鹿野郎! そんな銃で勝てるか!? 」
 そんな騒ぎもその場に置いて、応隆の話は続く。
『福岡にやって来たのは、高度に進化した人工知能に操られた、ロボットです。
 その頃のスイッチアは、環境が破壊つくされた、死の世界でした。
 ロボットの目的は、当初からなされていたプログラムに従い、人類の生存権を確保すること。
 そのために必要な、ある超常物質を求めて福岡へやって来たのです。
 その頃のスイッチアには、人間はいなくなっていました。それにもかかわらず、です」
 応隆が言葉を切った。
 その間にも、話声はあった。
「すべて出鱈目だ! 」「これは夢だ! 早く覚めろ! 」
 恐怖で状況が受け入れられなくなった三種族の声が。
 その点、優太郎は応隆の言葉を覚えておけるほどの冷静さはあった。
『なぜ、気づかなかったのですか。 このまま戦乱の時代が続けば、お互いに力を失うだけ。
 宇宙帝国にしろ、歴戦の疲れで、もはや難民と化している。