レイドリフト・ドラゴンメイド 第7話 星を超えた守り
「ダメよ! テーブルの下に人がいるの! 下手に動かすと絡まって、どうなるか分からない! 」
「何!? 」
その時、巌の横から顔を出した少女が、瓦礫の一点を指さして叫んだ。
「大丈夫! あのあたりにいるから、その手前までよければいいんです! 」
長めの黒髪を毛先に段差をつけたマッシュレイヤー。切れ目で大人びた顔立ち。
透視能力者のスバル・サンクチュアリだ。
ユニの万物振動と、巌のサイコキネシスが、勢いよく瓦礫を吹き飛ばした。
残った瓦礫に多くの人が張り付き、撤去を続ける。
皆、手に傷をつけながらも、ようやく埋まっていた人を見つけた。
「いたぞ! 」
力なく横たわるのは、ユニを撮影していたカメラマンだった。
「埋まっていたのは、この人だけです! 」
スバルが叫んだ。
「担架持って来い! 」
折りたたみ担架を組み立てていたSPの一人が、総理にそう言われて運んで行った。
それを見た優太郎はあきれてしまった。
「異能力者と言えども、肉体は普通の人間と変わらぬ、という事か。お前たちは、安全な場所に隠れて、超能力を集中させ、我々を謀って来たのだな!? 卑怯な! 軟弱な! 」
滑る床に這いつくばりながらも、声の限り叫んだ。
だが、それに応える人間はいなかった。
無視された優太郎は怒りに震える。
それをきっかけに、体が内側から膨らんでいく。
全身に人間には実現できない力が満ちていくからだ。
元の姿に戻ろうとしている。
マークスレイはそれに反応し、地球人を守るため、最も厚い正面装甲を三種族に向けた。
四本足の先についたタイヤには、電動モーターが内蔵されている。
それぞれがバラバラに動くため、その場で車体を回転させる。
側面装甲が野太いモーター音と共に外れた。
外れた装甲は、車体とほぼ同じ長さの二本の機械腕となった。
車体前部が肩になる。
それでも優太郎に恐れはなかった。
「この星の支配者がチェ連を作った人間であることも! 星の名がスイッチアであるとも! 認めておらぬ! あー! 何をする! 」
マークスレイの左腕についた二本指が、優太郎の胴体をつかんだ。
息苦しいほど腹を押さえこまれ、持ち上げられる。
機械の右腕が、隣にいた海中樹の男を捕まえた。
『このまま変身を続ければ、この腕の中で巨大化した体が逃げることもできず、ちぎれることになりますよ! 』
スピーカー越しに聞こえる、若い女の声。
二本の機械腕は、捕まえた二人を抱きしめるように車体に近づける。
捕まった者達は、それを巨大化する自分達を逃がさないためにすることだと悟った。
海中樹の男は、それに観念したのか抵抗を止めた。
だが、優太郎は諦めなかった。
「何様のつもりだぁ! 」
その叫んだ顔は、もう人間の物ではなかった。
ワニのような、肉食恐竜のような、前に突き出した口に鋭い牙が並ぶ。
変化が進むたびに、着ていたスーツが破れてゆく。
翼がさらに巨大化する。
人間らしい両腕は翼と一体化して、関節を太くする。
すべすべした人間らしい皮膚が波打ち、赤い液体となって滴り落ちた。
ボルケーナが駆けた魔法、ボルケーニウムによる偽装が解けたのだ。
その下から現れたのは、金属同士がこすれる音を立てる銀色の鱗。
長いトカゲのような尾が生える。
十分に巨大化した体は、気合と共にマークスレイの機械腕を弾き飛ばした。
隣で捕まった海中樹の男は、軟弱者とみなして巻き添えにした。
床に降りて足を滑らせるわけにはいかない。
翼を羽ばたかせ、体を浮かせると、今度は全体重を鋭く太いカギヅメを備えた右足にかける。
優太郎が狙うのは、マークスレイの運手席を覆う防弾ガラス。
五二トンの体が加速をかけた爪がせまる。
それに反応してマークスレイは、両腕を運転席の上で交差させる。
防弾ガラスの上には、分厚い防弾シャッターが滑り込んだ。
先ほどの炎を打ち消した衝撃波減衰システムによるバリアが、両腕の上に現れる。
「無駄だ! 」
プラズマの衝撃も、一塊の鉄の足を止めることはできなかった。
カギヅメは上にあった右腕の装甲に突き刺ささり、砲塔まで押しつぶした。
その衝撃は四本足まで伝わり、金属のねじれる嫌な音を上げる。
優太郎は勝利を確信し、再び体を持ち上げた。
もう一度蹴りを放ち、同時に止めの炎を放とうと口に力を込めた。
飛竜の顎に、マークスレイの無事だった左腕が突き出された。
竜は、その装甲の奥から、一本のパイプが突き出されているのを見た。
その奥から、凄まじい圧力で噴出されたのは液体だった。
その圧力だけで竜の炎を消せるほどに。
そして、その効果は、臭くて目に染みる。
優太郎の羽はバランスを失い、顎をマークスレイの腕にぶつけた。
そのまま床に倒れ込み、もだえ苦しんだ。
必死に口の中の物を吐き出しながらも、その本能的な不快感からは逃れられなかった。
スカンク。
暴徒鎮圧用に開発された、イスラエル製の悪臭を放つ兵器だ。
マークスレイの防弾シャッターが開き、その奥の防弾ガラスが鳥の羽のように開く。
ガルウイングドアだ。
その中から出てきたのは、人ではなかった。
左右のドアから一つづつ、大きな猫耳が飛び出してブルブルと震えていた。
その内側から洩れている赤い光。
それを見た時、優太郎の怒りに、張り裂けんばかりだった鼓動が、鷲づかみにされたように縮みあがった。
「ボルケーナ……様……」
三種族の中から、怯える声が漏れ聞こえた。
マークスレイを操縦していたのは、赤い金属のかたまりからビームの触手を伸ばした、ボルケーナ分身体だった。
今は金属のかたまりから大きな猫耳を伸ばしている。
「ぎゃああああ!!! 」
突然、悲鳴をあげて、ひれ伏す海中樹の女。
表情を失ったかと思うと、直立不動の姿勢のまま倒れる天上人の男。
我先に外へ逃げ出そうとする者達もいた。
倒れたり、ひれ伏す者を踏み越えてまで。
擬態を解いて戦おうとする者もいた。
スーツが破れる音に続いて、めりめりと木の裂けるような音。
海中樹が擬態を解いた音だ。
ドン! とガス爆発のような音と共に人間の姿を捨てたのは天上人。
いくつもの金色の雲が生まれ、天井付近で一塊になった。
巨大なエネルギー体となった雲からは、稲妻が跳ぶ。
やがて形が変わり始めた。
巨大な獅子が牙をむく姿になり、地球人に向かっていく!
その動きがピタリと止まった。
その後に、電撃や炎、見えない衝撃が三種族に襲いかかる。
魔術学園生徒会が戦闘を開始したのだ。
「やめろ! 」
意外にも、それを止めたのはボルケーナだった。
マークスレイの操縦席から新たな触手が跳び、まっすぐに双方の攻撃を迎撃した。
「子供の前で、親や友達が戦うところを見せるんじゃない! 」
女神はそう一喝したが。
「そんな! 天上人は切っても焼いても死なない気体ですよ!? 」
抗議の声を上げたのは、テレパシストの城戸 智慧だった。
天上人が動きを止めたのは、彼女が操ったからだ。
作品名:レイドリフト・ドラゴンメイド 第7話 星を超えた守り 作家名:リューガ