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ヴァリング軍第11小隊の軌跡(仮)

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 その頃、樹音はこのヴァリング王国の歴史を見せられていた。
 一体どうしてこうなったかと言うと……

 

 樹音の前に現れた老人は樹音を面白い物を発見したような感じで見ながら言った。



『その通りじゃ。この壁はアメイジング・グレイスという曲の楽譜そのものじゃ。しかし他にも意味がある。分かるか?』

「いえ、その、すいません…」

『ほっほっ、いいのじゃ。この楽譜の音符にはそれぞれこの国の歴史が詰まっておるのじゃよ』

「国の歴史…?」



 庭かには信じられない話だった。



『このヴァリング王国という国が出来てからもう120年の時が経つ』



 …120年。
 物凄い歴史の積み重ねをこの数字に感じた。



『儂はずっとこの場所からこの国を見てきた。国の決断に納得いかんことも、その逆も、色々な思いがある中で見続けたものじゃ…』



 そう語る老人は何処か遠くを見るような目をしたいた。



『儂自身が望んだ事とはいえ、まるで監獄にでも入れられた気分じゃったわい』

「自分からここに?落ちた訳じゃなく?」

『これでも魔法は使えてな』

「どうして…」

『長寿族故に国のバランスを考えるとそうするしかなかったのじゃ…新しい時代を切り開く為には古い物は切り捨ててゆく。この国はそのようにして変化し続けてきたんじゃから……』



 だとしたら



「この曲は?私、この曲知ってました!母が吹いていた曲で、教えて貰えた唯一の曲でもあります!母はその時、言ってました!「この曲は何処の誰が作曲したかも解らない程に古くから存在した曲です。この国は古い物を切り捨てます。しかし覚えてて起きなさい。古い物からこそ新しい物が生まれるのです。そして受け継ぎという言葉があるように、人から人へその思いや技術、曲などが伝聞されていくのです。私から樹音にこの曲が受け継がれていくようにね」って、言ってました。すべてが全て切り捨てられていたわけじゃないんです…!」



 言って樹音は泣いた。
 自分は古い曲を母から受け継いだ。
 この人は誰かに自身の思いを伝えなかったのだろうか?
 受け継ぎがいなかったのだろうか?



『良い母上じゃ……』



 とても悲しい声だった。



『ならばついでに儂のこの役目もまた受け継いでくれんかのぅ…』

「…役目?」

『歴史《曲》の受け継ぎじゃ』

「…アメイジング・グレイスなら母からとっくに受け継いでますよ?」

『そっちではなく、この壁の楽譜の受け継ぎの事じゃよ。お主の母が受け継いだ物は確かにアメイジング・グレイスだが、完成品ではない、未完成品じゃからのう…だから今までこの遺跡は何の反応も示さなかったのじゃから……』



 樹音は迷った。
 何かとんでもない物を今自分は背負わされようとしている気がする。でも老人の言ってる意味が解らない程に馬鹿ではない。
 自分はまだ一般兵で、軍に入れたとしても見習いからで一番下の立場になるだろう。
 そんな自分が国の歴史を受け継ぐ事になる。
 ……いいのだろうか?という戸惑いと、自分しかいないなら!という思いが交差する。
 矛盾に満ちた自分の気持ちに樹音は母の言葉を思い出した。



「受け継ぐ時は真っ直ぐに、そして正確に見極めることです。そして一番大事な事…それは迷わない事です。」



 私は正しく見極められているのだろうか?
 自分ではもう確認出来ない。
 何故なら母は既にこの世にいないのだから…。
 ならば今私がするべき事は、この老人を信じる事だ。
 そして迷うな。
 少しでも受け継いでもいいという気持ちを持ってしまったのならば、迷ってはいけない気がする。
 だから樹音は言った。



「分かった」と。

「この曲は私が受け継ぐ!」と。



 その瞬間、遺跡全体に異変が生じたのだった。