ヴァリング軍第11小隊の軌跡(仮)
悠斗は手慣れた手付きで入り口に張ってある赤いレーザーを一本ずつ解除していく。
そして20本あったレーザーがたった5分で解除された。
細長い通路を市花と小百合と悠斗の3人が進んでいく。その時、悠斗が待ったを掛けた。
「ここからは敵が多い…なるべく戦闘は避けるべきだ、別の所から行った方がいい…」
「別の所って…」
市花は不意に上を見上げた。
「あ」
そこには通風孔つうふうこうがあった。
何処に繋がっているか判らないが敵に遭遇するよりマシだ。
市花が魔力を足に溜める。
「小百合、悠斗くん、私に掴まって。一気に跳ぶよ!」
二人は頷き、市花に掴まった。
「少し痺れるかもだけど我慢してね」
そして市花は一気に壁を掛け上がった。
通風孔の中に入った3人は悠斗を先頭に、匍匐前進ほふくぜんしんしながら前へ進んでいく。
30分程進んだ時、光が差し込んだ。
掛け網から中を覗き込めるようになっているので、悠斗は見た。中には首が4つ並んでいた。
「二人とも…」
「何?」
「心して置くように…」
「…うん」
市花と小百合は順番に見た。
死体の首は、見知った顔振りだった。
右側から寛・ヴァリー、恂・ユーン、綾乃・カイセ、凪・ハーシの軍人学校出身者達だ。
市花達は息を呑んだ。
一歩間違えれば自分達もああいう風になっていたに違いない。
あの場所で敵に勝てたのは敵が油断していたからに他ならない。仇を打つ、何て事は考えない…否、考えてはいけない。そんな事をしては生きて脱出出来ないからだ。
市花達は、前へ進む。
4人が死んでいる事は分かったが、まだ一人残っているのだから。
悠斗は仲間の確保を優先するため、自身の能力を少し使用した。
それは『神眼シンガン』と呼ばれるものだった。
この能力は、誰が何処でどうなっているか全てを見通す事が出来る眼めで、『神の眼』と呼ばれるものである。
(ギュイーン…)
神眼シンガンが発動する。
悠斗の両眼が焦げ茶色から翡翠ヒスイ色に染まる。
この建物の中の全てを悠斗は把握した。何処に誰がいるか、熱源反応、そして自分達の現在位置までもだ。
「…見えた。こっちだ」
悠斗は急ぐように匍匐前進のスピードをアップした。
「どうしたの?急にスピードアップして」と市花は聞く。
「敵が僕達に気付いたようだ」
「え!何で!?っていうかそんな事分かるの?」
「まあ、それだけが取り柄だからね」
「…………」
「ここから少し坂になっているから」
匍匐前進でゆったりな登り坂を進んでいく。
「あった…。悠斗は自身の上にある円形の穴を指さし
「ここを昇るよ。大丈夫、ちゃんと梯子が付いてるから」と言い、まずは見本を見せるように彼が先導役となり上へ登って行く。その後を市花と小百合は真似して追っていく。
「でも、本当にこっちであってるの…?」
「力の反応が物凄い漏れてるからね」
「能力の漏れって事?」と小百合。
「ああ」
「そんな事ってあるの?」
「この試験は僕達みたいな訓練を受けている者だけが受けているわけじゃないよ?一般人も参加している。そして面接を突破した一般人は二人いる。一人はラッパの腕が既に達人級な子とそしてもう一人の二人だ。この感じからして恐らくは後者の子の能力だろうね。何の能力かはまだ判らないけど…」
「ラッパの子は大丈夫なのかな?」
「さあ、でもまだ死んでない筈。ちゃんと島の中に生体反応があるから、ただ何処にいるかまでは判明してないけどね」
「…そっか…」
「気になるの?」
「え、そういう訳じゃないけど…でも船の上で聞いた音色は物凄かったから…」
「…確かに」
「音楽の事はよく判らないけど、ああいうのって努力だけじゃどうにもならない才能の世界だと思うし、彼女の力は僕達のように契約して手にいれたものではなく本人の素質の部分が大きいようだし、軍にもあれくらい吹けるラッパ師は極少数だろうから歓迎はされるだろうね」
「でも、それ以外は…」
「一般人に求めるものは僕達軍人学校出身の者達とは違う?一芸"だろう。体力や戦闘能力なんてものは求めてないと思うよ。まあ、訓練はさせられるだろうけど」
「それもそうね」
「確かに…」
「それより、もうすぐで到着するよ…二人共、一応戦闘準備しといて」
「敵もいるの?」
「見張りが一人いる、そして二人向かってきている。僕達が入った瞬間に落ち合うかもしれない」
「分かったわ。じゃあ貴方は助ける方に専念して、敵の方は私と市花で何とかするわ」
小百合は市花に顔を見合わせる。
市花も小百合に対して頷いた。
「OK、任して」
「頼りになるよ、本当に」
市花は回転式拳銃リボルバーを構え、小百合は短剣を右手に構える。
悠斗は「行くよ」と合図を送る。
そして勢い良く、飛び出した。
まずは悠斗が敵に仕掛けた。
神眼で敵の目を攻撃して、潰した。
「な、うわっ、目、目が!小僧、貴様、何を!!?」
「じゃあ後は頼むよ、二人とも」
悠斗は背後の二人に言った。
悠斗は前を見る。
そこには全身を機械で覆われている一人の少女の姿がそこにあった。そして新たに二人の敵が到着した。
黒いスーツに黒サングラスを掛けたの二人の男達。
その二人に向き合うのは市花と小百合の少女達二人。
敵は市花達二人の背後に倒れている仲間をみて「なるほど、只の餓鬼共じゃなさそうだな…ワック」
「了解」
「ワタシは貴様を殺る」
「…………」
ワックは小百合に、命令を出した方は市花にという対決になった。四人は同時に動いた。
四人の戦闘を横目に悠斗は神眼を使いながら着々と綾乃の身体に巻き付いた機械を解除していく。解除しながら気付いた事がある。それは能力の漏れだ。綾乃の能力はどうやら自分以外の誰かがいて初めて意味を為す能力だ。
能力の名前は、『伝播』。
天然能力者だった。
「今助けるからね…」
作品名:ヴァリング軍第11小隊の軌跡(仮) 作家名:鳶織市