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連載小説「六連星(むつらぼし)」第96話 最終回

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 「今から、赤いテープを投げるわよ~。
 途中で落ちたら、誰かが繋いで、前方になる出口までテープを伸ばして頂戴。
 測定に行くときに、私がいつも使っている特製のビニールテープです。
 とても丈夫だから、安心して引っ張って。
 これを目印に左右に分かれて、響のための道をつくって下さい。
 行くわよ~」

 ステージ上の亜希子が、赤いテープを頭上に放る。
テープの塊がゆるやかな放物線を描いて、大群衆の上へ落ちていく。


「拾ったぞ!。そっちへ投げるから、出口に向かってテープを運べ!」

 テープを手にした群衆が、さらに後方に向かってテープを投げる。
群衆の上を何度も飛び越えながら、赤いテープが車が待機している出口に向かって、
ひたすら伸びていく。

 赤いテープがガイドラインのように、群衆の真ん中を横切っていく。
真ん中にテープを置いた人たちが、隙間をつくりはじめる。
わずかな身震いが、少しだけの空間を生む。
隙間を作るための動きは、さら後方に向かって伝達されていく。
波のようにひろがった身動きが、やがて、人ひとりが通れるだけの
通路を生み出す。
多くの傘が閉じられていく。
すこしずつ生まれた隙間が、出口に向かってさらに伸びていく。


 「道が出来始めた。赤いテープの左右に、隙間が生まれてきたぞ!」

 「前にいる人たちだけじゃ、限度がある。
 うしろにいる人たちも、少しずつでいいから、協力してくれ。
 傘をたたんで、10センチでも5センチでもいいから隙間を作ってくれ」


 生まれた隙間を守るため、最前列の人たちがお互いの腕を組む。
互いの肩へ手を伸ばし、支え合い、空間を維持するための最大限の努力がはじまる。

 「俺たちも、協力をしょう。
 傘をたたんで、隙間をつくるために少しの間、がまんしょう」

「前方だけじゃ無理がある。会場全部で協力しようぜ」

「お前らも少しずつ下がれ、半歩づつでもいいからみんなで後退しよう」

「下がれ、下がれ。響ちゃんのために、道を開けてやれ」

 多くの共感の声が交差をする中。東側の群衆が、一斉に傘が閉じていく。
呼応する形で、反対側にいる参加者たちも、次々に傘を閉じていく。
会場全体に咲きほこっていた沢山の傘が、いつのまにか花が散るように、
一斉に群衆の頭上から消えていく。

 「道が、できたぞ!」

 大群衆の中から、大きなどよめきがあがる。
赤いテープを真ん中にはさみ、群衆たちがつくりあげてくれた響のための道が
東にむかって一直線に伸びている。

 「さあ、すすめ。響。
 みんなが必死の思いでつくり出してくれた、あんたの花道だ。
 ありがとう、みんな! 
 ありがとう、今日集まってくれた、沢山の仲間たち。
 激しい雨をいとわずに、傘をたたんで場所をつくってくれた全ての皆さん!
 ありがとう。本当にありがとう・・・・
 響を若狭へ送り出すまで、お願いだから、もう少しだけ頑張って頂戴。
 さぁいけ。響。
 みんなの期待を背中に背負って、若狭へ向かって歩きだせ!」

 再び、激しく、雨が落ちてきた。
テープを挟んだ左右から、いっせいに響をまもるための傘が差し出される。
通路の上にだけ、まるでアーチのようにいっせいに傘の花が咲く。

 「濡らすなよ。俺たちのヒロインを濡らすなよ!」
 
 「頑張れよ響。俺たちもあんたに負けずに、ここで頑張るから」

 「ここからだ、ここからすべてがはじまる。
 さあ行け響。あんたは間違いなく、俺たちの希望をかなえるヒロインだ。
 さあ行け、響。福井へ向かって歩き出せ、響・・・・」

 さらに激しく落ちてきた雨が、あっという間に参加者の全身を濡らす。
しかし。『響。響』の大合唱は、もう誰にも止めることができない。
ゆっくりと、確かな足取りで、沢山の腕によって支えられた傘のトンネルを
響が、ゆっくるとくぐりぬけていく。
「さぁいけ、響。福井へ向かって歩いて行け!」の大合唱は、
停まることを知らず、何度も何度も、官邸の夜空に向かって響きわたっていく