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連載小説「六連星(むつらぼし)」第91話~95話

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 俊彦が、2人の間に割り込んでくる。
足元に居る老婆をかばい続けている岡本と、背後から割り込んできた
俊彦の周囲に、先ほどよりも圧倒的に人の姿が増えてきた。
家族連れや若い恋人同士の姿も見える。
普段。抗議活動やデモ行進とは、まったく無縁と思えるような人たちの
密集が、官邸前を埋め尽くすように増えてきた。
小さな子供を肩に担ぎあげている様子なども、あちこちに見られる。


 「原発依存から脱却を遂げたスウェーデンは、日本の20年先を
 走っています。
 今から20年前のスェ―デンは、日本と同じような課題を抱えていた
 事になります。
 『持続可能な社会のあり方』をどのよう守り、どのように
 作りあげていくのかが、今回の映画のテーマです。

 「持続可能」には、多様な意味が含まれています。
 監督がとりあげたのは、自然の法則に逆らないという考え方と生き方です。
 自然循環が持っている大きな力を、大切にするという発想です。
 人類は2000年以上にわたり、地域社会を持続させてきました。
 政府と電力会社は、2030年までに14基の原発を増設する
 計画を持っています。
 東京電力は、福島第一原発の7号機、8号機の増設計画をたてています。
 原発事故の長期化が懸念されていた3月31日付で、経済産業省に
 提出していたことが最近になって発覚しています。
 こうした背景を紹介をしながら、映画は原発建設に反対している祝島を
 長期にわたった取材しています。

 山口県の上関町ですすめられている建設計画は、瀬戸内海の入り口にある
 美しい湾を埋め立てようとしています。
 原発のために、自然を破壊しようとしています。
 原発予定地の真向かいに位置している祝島の人たちは、原発の建設に
 26年間にわたり反対を続けています。
 こうした島民たちの願いとはうらはらに、建設計画は着々と前進しています。
 埋め立て予定地の田ノ浦は、海底から淡水が湧く多様な生物の楽園と
 言われています。
 漁師たちにとっては、最高の漁場になっているんです。

 祝島で、1000年以上も続いてきた暮らしや文化が、
 重大な危機に瀕しています。
 日本の原発のほとんどが、海沿いや、風光明媚な海岸線に建てられます。
 原発による環境破壊は、いまも何ひとつとして変わっていません。
 全てを見直して、新しい進路について考える時期にきていると思います。
 映画は全編を通じて、そのことを強く告発しているのです」

 「なるほどなぁ。
 3,11の前から、献身的に活動していた女流のコンビが居たのか・・・・
 すてたもんじゃないな。日本のドキュメンタリー作家というものも」

 説明を聞いた岡本が、深くうなずく。
「僕もそう思います」熱弁を語った青年も、満足そうな微笑みを見せる。


 「で。おじさんは、どんな仕事をしてらっしゃる方なのですか」

 「おっ、俺のことか。ひと言じゃ難しいぞ。
 総合人材派遣業の元締め、というところかな。
 派遣先は、すこぶる広範囲にわたる。
 原発から、すべての土木工事の現場、ときには風俗関係までカバーする。
 要望が有れば、どこへでも人を派遣するのが俺の主な商売だ。
 いいこともするが、時には少々悪い事にも手を出す・・・・
 おっ、隣りに居るこいつは、俺のおさな馴染みだ。
 桐生という、チンケな田舎の町で、蕎麦屋をしている俊彦だ。
 着物を着ている美人が、娘の響だ。
 ブログで原発労働者の小説を書いているから、たぶんちょっとした有名人だ。
 で、そのとなりにいる垢ぬけしたおばちゃんが、母親の清子だ。
 全員ではるばる、原発に反対するため群馬からやってきた」

 響の周囲が、突然、ざわつき始める。

 「響の出身は群馬じゃないよ。ペンネームは広野のひびきだもの・・・・
 広野なら福島県だ。でも事情ありのペンネームという説もある。
 調べてみろよ」

 「山本という原発労働者の証言をもとにした、ネット上の小説のことだろう。
 それなら俺も読んでるぞ。
 本当か。本人が今日のデモに参加しているのか。
 そういえば主催者側が、今日の官邸前の歩道の上で思いがけない、
 サプライズが有りますと、書きこんでいたなぁ」

 「えっ、あの響が来ているの?
 原発反対を書いているブロガーだもの、参加してても不思議ないじゃん。
 ねぇねぇ、どこなのよ。どの子なの。ひびきって」

 「着物を着ている女の子のようだ。
 ほら。ブログの中でも二部式の着物を着ている画像が、
 よく登場していただろう」

 波紋が、小石が投げ込まれ池のようにひろがっていく。
誰かが携帯電話で、響の検索をはじめている
インテリの青年も岡本と並んで歩きながら、指先は忙しく握り締めた
スマートフォンを検索している。