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連載小説「六連星(むつらぼし)」第91話~95話

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 「兄ちゃん。インテリだね。
 その、鎌仲なんとかという女流の監督さんは、良い女なのかい?
 俺は、その点にも興味が有るけどなぁ・・・・
 いやいや茶化して申し訳ない。もうすこし詳しく話を聞かせてくれ。
 ずいぶんと、ためになりそうな話だからな」

 『押さないようにして、静かに前進してください。
 後方からの参加者が、ますます渋滞しています。少しずつ場所を
 譲り合いながら官邸方向へ前進するようお願いします・・・・』


 前方から聞こえてくる呼び掛けに応え、人の波が距離を少しずつ詰めていく。
肩を寄せ合いながら、歩調を合わせて、ゆっくりと動いていく。
老婆の後に立った岡本は、老婆が人波に押されないようにガードする。
ワンテンポ遅れて歩きながら、狭い空間を維持し続けていく。
(ほんとだ・・・このおっさんは見かけによらず、優しい人のようだ・・・・)
岡本と肩を並べて歩き始めたインテリ青年が、なにげない大人の振る舞いに
思わず眼を細める。


 
 「鎌仲 ひとみ監督は、 1958年6月11日に富山県で生まれています。
 ドキュメンタリー映画の女流監督です。
 2003年に監督したドキュメンタリー映画「ヒバクシャ―世界の終わりに」
 は地球環境映像祭アース・ビジョン大賞や、文化庁映画賞など、
 多くの賞を受賞しています。
 ほとんどの作品でカメラ担当の、岩田まき子さんとコンビを組んでいます」


 「おっ、こんどは、女流のコンビの登場か。
 それにもまた、そそられるものがあるな。
 地球環境を守ると言う仕事は、そのまま、人の暮らしを守ることにつながる
 地球の温暖化も怖いが、飛散した放射能はもっと怖い。
 ずいぶん昔からそういう問題を取り上げて、頑張っている女流監督と
 女流のカメラマンが居たとは、まったく驚きだ。
 やっぱり勉強になるねぇ。こういう場所へのこのこと顔を出すと」

 「デモは初めてですか。おじさんは」


 「おう。まったくの初体験だ・・・・いや、ちょっと待て。
 俺がまだ学生だったころの1985年。
 大好きだった女優の夏目雅子が死去して、日本航空の123便が群馬の
 御巣鷹山で墜落事故をおこした年だ。
 歌手の坂本九を含む乗客の520人が死亡するという、大惨事が発生した。
 その頃。なにかの抗議活動で、国会前へ駆け付けたことが有る・・・・
 なんだったけかな、あれは・・・・27年も前のことだからなぁ」

 「当時の中曽根康弘首相が、終戦の日に靖国神社へ強行参拝したんだ。
 それに対する学生たちの抗議のデモだ。
 あの時は正義感の強い左翼系だったお前が、いつのまにか右へ転身したんだ。
 わかんないもんだなぁ、人生は」

 背後から俊彦が口を挟む。


「おう、それだ、そいつだ。その抗議のデモだ。
 しかしお前・・・・ひと言多いぜ」

 苦笑いをした岡本が、俊彦を振り返る。

 「で・・・・どこまで進んだっけ、兄ちゃん。
 女流コンビがつくったという、ミツバチの映画の続きを聞かせてくれや」

 「面白そうだな。俺にもきかせてくれ」