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連載小説「六連星(むつらぼし)」第91話~95話

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 「警察から交通規制を受ける前に、人波で前方をふさがれてしまいそうだ。
 このままでは無理だ。
 お前たち迂回して、どこか目立つ場所で車を待機させておけ。
 此処から降りて歩くぞ。行くぞ俊彦。ここからは徒歩だ。
 それにしても、凄い人数だな・・・・」

 人の列が、途切れることなく官邸前までつづいていく。
官邸が近づくにつれ、さらに人の密度が増していく。
前にも後ろにも人があふれて、官邸前に着くころにはついに3万人を越える
人の波になる。


 午後6時。
予定通り、官邸前での抗議行動がはじまった。
前回をはるかに上回るたくさんの人たちが、官邸前を埋め尽くす。
危険を感じた機動隊員が、官邸前の横断歩道を封鎖する。
歩道が封鎖されてしまったため、これ以上すすめなくなった人の波が
自然にひろい車道へあふれだす。
官邸前の車道は6車線。広い車線が、大勢の人によって埋め尽くされる。
官邸前のひろびろとした6車線が、そのまま抗議活動の広場へ変る。

 身動きが取れなくなった岡本の隣に、小さな女の子を抱きかかえた
育児中そのものという雰囲気の男性が立っている。


 「兄さん。小さな子ども連れでは大変だな。何処から来たんだ?」


 「墨田区から来ました。
 子どもを保育園から引き取り、その足で、そのまま来ました。
 再稼働が押し切られるのではないかと思うと、いてもたってもいられません。
 原発の再稼働阻止は、子どもの未来そのものですから」

 男性が、子供をさらに高い位置へ掲げあげる。
となりに奥さんらしい女性が立っている。臨月に近いような妊婦だ。
女の子の顔を見上げながら、妊婦の手は若い父親の手を、
しっかり握りしめている。

 「大変だなぁ、奥さんも・・・・身体が重いというのに。
 予定日はいつだ。あまり無理するんじゃないぜ」

 「大丈夫です。8ヶ月目にはいったところですから。
 原発の再稼働は他人事ではありません。
 こうして家族で、総力をあげて抗議のためにやってきました。
 いまのところ3,8人です。ねぇあんた。うふふふ」

 「お腹が8ヶ月目だから、0,8人前というわけか。
 旨い事をいうねぇ奥さんも。元気で可愛い赤ん坊を産んでくれよ」


 「はい。ありがとうございます。
 そのためにも、原発反対を頑張りたいと思います!」

 3,8人分の家族がひと塊りになって、人の隙間を縫いながら去っていく。
身重の奥さんが、最後に可愛い笑顔を見せる。
2度3度と岡本へ手を振りながら、人の波に呑みこまれるように消えて行く。

 「あんたの顔は見るからに怖いが、心は優しそうな良い男だねぇ」
岡本の足元から、突然、女性の声がしてきた
あわてて下を覗きこむと、90歳近いと思われる老婆が足元にいる。


 「おっとっと・・・・大丈夫かよ、ばあさん。びっくりさせんな。
 気をつけろよ。小さすぎて、踏みつぶされるなよ人波に。
 それにしてもよく来たねぇ。
 何処から来たんだ。こんなアブねぇところへ」


 「茨城じゃ。倅が東京へ抗議に行くと言うので、わしもあとを着いてきた。
 ひとことドジョウの総理に、言いたいことがあるからのう。
 放射能をばらまく、原発の再稼働は絶対いかん。
 それがいいたくて、こうしてはるばるやってきた。
 これが、その倅じゃ。お前さんより、少し男っぷりは落ちるがのう・・・
 いっひっひ。どうじゃワシの、自慢のせがれじゃ」


 「ばあちゃん。見知らぬ人だっていうのに、ひと言多いよ。まったく・・・・
 震災が来る2日前。鎌仲ひとみ監督の『ミツバチの羽音と地球の回転』という
 映画を見ました。
 いままで全く知らなかった原発の事実に、強い衝撃を受けました。
 原発に強い関心を持つようになったのは、それからです。
 そう思い始めたやさき、3.11の大震災が東北をおそいました。
 第一原発が破壊されたことで日本でも、放射能の危険が現実のものに
 なりました。
 それ以降。積極的に原発の勉強をして、こうして反対デモなどにも
 参加するようになりました」

 「なんとも偉いねぇ。たいした倅だ。たしかに自慢の息子だ、ばあちゃん。
 で、なんだ。その、ミツバチがなんとかの映画というのは・・・・」