小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

連載小説「六連星(むつらぼし)」第91話~95話

INDEX|5ページ/15ページ|

次のページ前のページ
 


 大飯原発の再稼働が、にわかに現実味をおびはじめる。
こうした動きに支えられ、野田政権が『国民の生活を守るために』と
さらに追随していく。
多くの批判と反対意見を無視して、再稼働の最終結論をくだしてしまう。

 国民感情を逆なでし続けてきた、電力会社と経済界、野田首相の行動に、
国民の怒りが、ついに大きな火をつける。
一人の青年がツイッタ―を通して、立ち上がろうと呼びかける。
3月以降。多くの人々が毎週金曜日の夜を中心に、総理官邸前へ
集結しはじめる。
歩道から、原発再稼働反対の大きな声をあげる。
当初は、100名以下という小規模ではじまった。
だが週を追うごとに、参加者は急増していく。
『紫陽花革命』という名称が登場すると、呼びかけの拡散も一気に
進みはじめた。
抗議集会への参加者が、1000人を上回り始める。


 こうした背景に有るのは、ひとたび事故を起こせば簡単に収拾できない
原子力発電への不安がある。
原子力村に代表される霞ヶ関と、産業界の癒着体質にも目が向けられる。
そこに構築されている利権構造に対する、長年にわたる不信感にも火が点く。
テレビや新聞などの大手マスコミは、完全な報道規制をひいた。
反対デモの存在は、国民に一切報道されない。
インターネットを通じてのみ、デモの様子が報じられていく。
国民の声を無視した報道規制は、その後しばらくの間にわたって続いていく。


 しかし。デモの規模がついに2万人を越えた頃。
報道ステーション(テレビ朝日)がデモの様子を取り上げたことを皮きりに、
一部のマスコミが、紫陽花革命を報道し始める。
これまでのデモとは異なる人たちが、集まって来るのも紫陽花革命の特徴だ。
労働組合や政党などによって、「動員」された人たちではない。
ひとりひとりの人たちが、ツイッタ―の呼びかけを通じて自発的に集まってくる。
それがこのデモの、最大の特徴だ。
参加者の一人一人が、自分の意思で参加してくる。
今までデモにまったく参加したことのない人や、子連れの若い夫婦や
主婦などが集まって来るのも、いままでにはなかった、まったく
あたらしい流れだ。



 響を乗せたワンボックスが、首都高速を降りる。
カーナビを駆使しながら、永田町の細い路地を官邸目指して接近していく。
都立の日比谷高校を過ぎ、衆議院の第二議員会館を近くに見上げ始めた
ころから、低空で旋回しているヘリコプターの音が、大きく響いてきた。
官邸に近づくにつれ、車内に軽い緊張感が走る。


 「お守りかわりに、もっていきなさい」

 清子が、響が着ているものと同じ生地で仕立てた、巾着袋を取り出す。
「何が有るかわからない。大事に持っていくんだよ」そういいながら響へ
巾着袋を押し付ける。
「なに、これ?」袋の感触を手のひらで確かめながら、響が小首をかしげる。

 「開けてごらん」


 促されるまま、響が巾着の紐をゆるめる。
手のひらへ出てきたのは、2冊の預金通帳と響の名前の印鑑。

 「あなたが生まれた時から、貯めてきたものです。
 結婚資金の足しにと、楽しみにしてきましたが今のこの様子では、
 あなたがお嫁に行くのは、当分先のようです。
 好きに使いなさい。全部あなたのものですから」

 「お母さん・・・・」


 「泣くんじゃないよ響。涙は門出に不吉です。
 私に出来ることは、もう、ここまでです。
 あなたは、あなたの思う人生を精いっぱい、思いっきり生きてちょうだい。
 もうわたしの役目は終わりです。
 好きに、どこへでも、思い切り羽ばたいて飛んでいくんだよ。
 何かあったら、辛いことが有ったら、いつでも戻ってくればいい。
 桐生と湯西川。あなたが帰りたいと思った場所へ帰っておいで」

 「おい。・・・・やたら人の数が増えてきたぜ」


 岡本が、後部座席を振りかえる
官邸まであと500mあまりに迫ったあたりから、急に人の数が増えてきた。
抗議のために、官邸前へ急ぐ人たちの群れだ。
前方に、参加者を誘導している主催側のボランティアの姿が見えてきた。

 子どもを抱えたお母さん。ネクタイをゆるめたサラリーマンたち。
若いカップル。初老の婦人。白髪の老人。
多種多様の人たちの顔が、歩道の上にあふれていく。
車もついにこれ以上、前へ進めなくなる。
歩道からあふれた人たちが車道で出て、車の進行をさえぎりはじめたからだ。