連載小説「六連星(むつらぼし)」第91話~95話
「家の中でまったく吸えねえ。
だいいち、娘がうるさくっていけねぇ。
見つかるたんびに、健康に悪いからやめろ、やめろの繰り返しだ。
自分のためだからきっぱりやめろと、カミさんまでうるさくて仕方がねぇ。
娘のやつ。いつのまにか大きくなって、あたりまえのように
親に意見するようになった。
面倒くさいぞ、娘ってやつは。扱いにくいし、我がままだ。
怒る訳にもいかねぇし、娘の意見を聞き捨てるわけにもいかねぇ。
中途半端で、持て余しているんだ。
とにかく厄介だぞ。娘の取り扱いってやつは」
「お前のお節介のおかげで、厄介な娘と再会することができた。
だがよ・・・・娘の面倒をみるってのは、それほどまで厄介なものか?」
「厄介なんてもんじゃねぇぞ。トシ。
好きで作った子供だが、成長するにつれて俺の手に負えない代物に変わる。
所帯を持った頃、あれほど可愛かった嫁さんも時間と共に、
鬼に変わっちまうんだ。
女はいうやつは、変身を得意とする生きものだ。
そのあたりの原因は、ほとんどが俺が作っているんだが、な。」
カーナビで懸命に検索していた凹が、突然、歓声をあげる。
「親分。何とかなりそうです。ルートが見つかりやした。
首都高速の都心環状線を三宅坂で下りて、高架下を走り抜けます。
永田町の路地裏をぬっていくと、官邸の西へ出ることが出来ます。
これなら、なんとか無事に着きそうです」
「ほら見ろ。やれば出来るじゃねぇか。
でなんだ。首相官邸ってのは、いったい都内のどこにあるんだ?」
「へっ?。・・・・あれれ?
だから、さっきから何度も説明している通り、都心の一等地です。
霞ヶ関の官庁街や皇居の近くです。
国会議事堂や議員会館などが密集している一角に、建てられていやす。
東京都千代田区永田町2丁目3-1。これがその住所です。
もしかしたら最初から、人の話を聞いてなかったんですか・・・・
親分ったら!」
「なるほど。そりゃぁ、たしかに都心の一等地だ。
辿りつくに苦労するわけだ。
なるべく気いつけて行けよ。間違いがないようにな。
まかせたぜ、お前たち」
「見境なく無茶な事ばかり言うから、おかしいなと思っていたら、
最初から聞いていなかったんだぁ、この人は・・・・
俺たちが四苦八苦しているのに、親分は『まかせる』のひと言だけだ。
細かいことに関心をもたないんだから、うちの親分ときたら」
「そう言うな。船に乗ったら船頭任せ。
車に乗ったら運転手と便利なカーナビまかせだ。
いやすまん。口が滑った・・・・可愛いお前さんたちの腕にまかせだ。
安全運転で行け。高速は100キロ、都内は50キロ。
1キロとして狂うんじゃねぇぞ。
さァ行くぞ。官邸前で、生まれてはじめてのデモ行進が待っている。
腕が鳴るなぁ。血が騒ぎ、肉が踊るわい!あっはっは・・・・」
作品名:連載小説「六連星(むつらぼし)」第91話~95話 作家名:落合順平