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連載小説「六連星(むつらぼし)」第91話~95話

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 「デモといっても、立ち止まって集会をやっている訳ではないようです。
 東京メトロの銀座線や千代田線、丸の内線などを使って、官邸前へ
 個人的に集まってくるようです。
 都心は車よりも、電車の方が便利です
 地下鉄などを使ったほうが、はるかに正確に移動することが可能です」

 「俺はどうせ田舎者だ。電車より車の方が好きな時代遅れだ。
 着物姿の響を、地下鉄なんかで行かせるわけにはいかにだろう。
 どんな手をつかってもいいから、官邸前に乗りつけろ。
 そのために高いカーナビをつけたんだ。
 なんとかという便利な通信機器も持っているんだろう。
 責任は俺が全部取る。いいからかまわず、どんどん強行突破しろ!」

 若い衆に向かっていきり立っている岡本を、3列目シートから
「まあまあ、もうそのくらいにしてあげなさいよ」と、清子が肩を叩く。
「そう言ってもなぁ・・・・」と、岡本は、まだ不満そうな顔を曇らせる。


 「響のために、若い者を福井まで同行させるとは、驚きだ。
 警護のためだけかと思ったが、長期に滞在させる予定ということは、
 何か別のことをたくらんでいるな、お前。
 一体なにをたくらんでいる、再稼働を目指している原発の下見か?」

 東京行きの腹を決めた俊彦が、岡本の肩へ手を掛ける。
助手席を覗き込んでいた岡本が、「ばれたか」と、体勢を元に戻す。
「察しが早い。さすがだな」と、ニヤリと笑う。
「ばれているんじゃ、仕方ねぇ」と、どっしりと座席へ座り直す。

 「原発は、存在そのものが金を産む代物だ。
 原発に携わっているかぎり、長い間、利権を手にすることができる。
 廃棄するにしても、後始末のための人手がかかる。
 時間も費用も、べらぼうにかかる。
 再起動するにしても、人手が必要になるし、準備に追われることになる。
 廃棄にしろ存続にしろ、原発は金を産むビジネスになる。
 こいつらも、そういうことを学んでもいい頃だ。
 中途半端で半人前だとばかり思っていたが、山本の葬式で何かをつかんだ。
 しっかりしてきたし、心強くなってきた。
 そう言う訳だ・・・・響の護衛のかたわら、現地調査をさせるつもりだ。
 本来なら俺が行きたいが、雑用が多すぎて、そうもいかねぇ。
 可愛い子には、旅をさせる、ということだな」

 「なるほど。転んでも只では起きないのか。お前さんらしいな」


 「低次元な言い方をするんじゃねぇ。
 れっきとした極道のビジネスだ、ビジネス。
 世間から遅れている、前近代的な蕎麦屋の発想は世俗臭くっていけねぇ。
 簡単になんでも探せて、手に入れることができる時代だぜ。
 ネットと便利な通信機器で、金が稼げる時代なんだぜ」

 「親分。便利な通信機器ではなく、アイポットです。念のために・・・・」


 「おう、そのポットの事だ。俺がいいたかったのは。
 響だって、原発反対の連載小説を、ネットで書き始めている。
 ちゃんと読んでいるんだろうな、お前。父親として。
 あれれ・・・・お前が父親だと言うことを、いつのまにかばらしちまった。
 内緒だったが、俺が全部ばらしちまっているような気配だな・・・・
 響にはそれとなく伝えておいたが、本当はいまだに内緒のはずだ。
 悪いなぁ、清子。俺が全部ばらしちまった。
 俺が先走りをし過ぎちまった。
 だがよ、もういいだろう。お前さんたち。
 そろそろ親子を名乗り合って、誰が見ても羨むような姿にしてくれや。
 見ている方が、じれったくて仕方ねぇ。
 お節介すぎるが、たまには俺のお節介にも乗ってくれ。みんな。
 響を旅に出すのは、トシも心配だろうが、俺だって心配なんだ。
 だがよ、みんなで笑顔で送り出してやろうや。
 今度は家族として。
 悪いな・・・・いろいろとしゃべっているうちに、涙がこぼれてきちまった。
 なんとかしろ、俊彦。
 見ている俺のほうが、つらすぎる・・・・」


 岡本が背中を丸めて、窓の外を見つめる。
「バカ野郎・・・・まったく余計なお節介をしやがって」ほらよ、と
一声かけて、俊彦がポケットから禁煙パイプを取り出す。
そのうちの一本を岡本へ手渡す。
「はじめたんだって。医者の忠告を聞き入れて、禁煙てやつを?」
「まぁな。家族のためにだ。」岡本が、禁煙パイプを受け取る。