小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

連載小説「六連星(むつらぼし)」第91話~95話

INDEX|14ページ/15ページ|

次のページ前のページ
 


 うお~っ、というどよめきが、場内を駆けめぐる。
雨を避けるためにひらいた傘が、夜空へ向かって激しく上下する。
「国民感情を逆なでする、野田政権の暴挙を、絶対に許すな!」
「安全性が未確認の大飯原発で、福島の悲劇を繰りかえすな!」
「再稼働、絶対反対!」「日本を放射能漬けにする、政府の暴挙を許すな!」

 激しい怒号と怒りの声が、群衆の中で何度となく湧きおこる。


 「静粛に。静粛に、皆さん、静粛にお願いします。
 我々は平和的に、かつ整然と行動して、いつものように総理に対して、
 原発再稼働反対の抗議を声をあげましょう。
 いつものように無理せず、足元も濡れてきましたので慎重に行動しましょう。
 ではこれから、抗議活動に入ります。
 呼びかけ人の一人で、放射線技師の資格を持ち、栃木県の那須町から駆けつけてくれた、
 我らがヒロイン、川崎亜希子さんを紹介します」

 開会を告げる青年の言葉が終わると、官邸前が静まり返る。
ビール瓶のケースが敷き詰められ、その上へコンクリートパネルが
置かれていく。
簡易なステージが、官邸前に完成していく。
ステージ前に陣取った人たちが、傘の位置を低くしていく。
後方の人たちに、ステージ上を見やすくするためだ。
「原発の再稼働を、絶対に許すな」と染めたのぼりが何本も立ちならんだ、
即席のステージがようやく完成する。
その壇上に、白衣姿の川崎亜希子が登場する。
「うぉ~」という大歓声と、「待ってましたぁ」の声が会場から飛ぶ。


 「今晩は、みなさん。
 ネットで響と2人で、原発反対ブログを書いている、栃木の川崎亜希子です。
 政府と野田総理は、私たちが大きく反対の声をあげているのを知りながら、
 大飯原発の再稼働を決定してしまいました。
 しかし、悲観することはありません。
 わたしたちの闘いは、まだまだはじまったばかりです。
 わたしたちの抗議活動は、これから先もひるまずに、日本からすべての原発が
 完全になくなるまで、毅然として続けていきましょう!」


 ふたたび、うお~という大歓声が、雨の会場を走り抜けていく。
笑顔で「静粛に」と呼びかける亜希子の声が、かすかに後方まで聞こえていく。
一陣の突風にも似た共感の声がおさまっていくと、ふたたび官邸前が
静かさを取り戻す。

 
 「今日は、みなさんに、素敵なサプライズが有ります。
 私と一緒にブログを書いている響の事は、みなさんもご存じだと思います。
 各地の原発を渡り歩いてきた末に、先日、たび重なる体内被曝が原因で
 亡くなってしまった原発労働者の山本さんのお話は、響が実話をもとにして
 書き上げたネット上の小説です。
 その響が山本さんの散骨する旅の途中で、デモの会場へ立ち寄って
 くれました。
 彼女は山本さんとの約束を守り、今夜ここから、山本さんが生まれて育った
 福井県の若狭を目指して旅に出ます。
 そして、嬉しいことにもうひとつ。
 響の名誉のため、年齢は公開できませんが、今日は響の誕生日にあたります。
 もう彼女は、この会場へ到着をしているはずです。
 密集状態の中を申しわけありませんが、彼女を見たらここまでの通路を、
 作り上げてください。
 この壇上で、若狭へ旅立つバースディの響を、出迎えたいと思います。
 お~い、響。聞こえているかい~!
 もう、たぶん、この近くまで来ているはずです。
 先導役の男性が響のバースディの、のぼりを持っているはずです。
 すぐ解るはずですが・・・・残念ながらここからは、
 響ちゃんの姿を、確認することが出来ません・・・・」

 三度目の、うお~という大歓声が、会場全体から立ちのぼる。
「どこだ。どっちだ!」という声と共に、多くの傘が揺れはじめる。
参加者たちの視線が四方八方へ、響を捜して散っていく。
どよめきが続く中、黄色いバースディのぼりがはるか後方で激しく振られる。