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連載小説「六連星(むつらぼし)」第91話~95話

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 「お~い、ここだ、ここだ。みんなの響ちゃんはここだ。
 悪いなぁ、集まった同士の諸君!お願いだから、道を開けてくれ。
 響は、大きな声ではいえないが、身長が158センチの、スレンダー美人だ。
 人ごみの中では、完全に埋没してしまうハンディの、持ち主だ。
 おいらが責任を持って、ステージの上まで先導するから、道を開けてくれ。
 少しずつでいいから、隙間を作ってくれ。
 頼んだぜ。ここに集まった、大勢の同士諸君たち!」

 激しくバースディののぼりをうち振りながら、護衛役の国定長次郎が、
声をからして叫び続ける。
身長が158センチで、和服を着た響は、だいぶ前から周囲の傘と人ごみの中に
完全に埋没したまま、立ち往生を余儀なくされている。


 「いたぞ~。この子だ。ここに居るこの子が、響ちゃんだ。
 俺も読んでいる。
 あんたと、栃木の亜希子さんが書いている、ブログの大ファンの一人だ。
 おい、頼むから先を開けたやってくれ。
 みんな、少しずつでいいから、道をつくってくれ。
 この子のために頼むから、ステージまでの道をあけてくれ」

 「響だ。」「響が本当に会場へ、やってきた・・・・」
さざ波のようなつぶやきが、小さな響を中心に、やがて会場全体へ
広がっていく。
傘が上下に揺れる中、官邸前の簡易ステージまでの隙間があらわれる。


「はじめまして響ちゃん。私も読んでます。あなたのブログ」

「へえぇ・・・・和服だ。でも本当だ、まだあどけない女の子だ。」

「押すな。守ってやれ。ステージまでは、もうすぐだ」


  たくさんの声と、感想が声が入り混じる中。
響がステージまですすむための道が、かろうじて会場内にあらわれる。


 「会場のみんな。道を開けてくれてありがとう!
 いま案内役の男性にエスコートされながら、着物の響ちゃんが
 ステージに向かって歩いています。
 誰かが言っていたように、彼女は身長158センチの大和撫子で~す。
 ・・・・誰だい? わたしの悪口を大きな声で言ったのは!
 ちゃんと聞こえたよ。
 どうせ私は、毎回ステージに上がるたび、くたびれた白衣を着ている、
 ただのそのあたりにいる普通のおばちゃんです。
 でもね。断っておくけど、響ちゃんを発掘したのは、この私だよ。
 原発の被害から、たくましく立ちあがった広野町のことを響ちゃんに
 教えたのは、何を隠そうこの私だよ。
 ブログで原発反対を先に書き始めたのも、私だよ。
 だけどね。・・・・
 そこから先の響の頑張りは、みんながネットを通じて知っている通りだ。
 小説を書きあげたのは、全部、響自身のお手柄だ。
 大きな反響を呼んだ山本さんのあのお話は、すべてが事実です。
 私は、そんな彼女とコンビを組めたことを、心の底から誇りに思っています。
 あ・・・・私への共感の拍手なら、要らないよ。
 全部、いまからここへ登場をする響のために、取っておいておくれ!
 みんなの拍手は、今日、誕生日を迎えた響ちゃんへの
 バースディプレゼントだ。
 頼んだよ、会場を埋め尽くしたみんな。大きな拍手で出迎えてよ!」


 「まかせろ!」大きな声が、会場のあちこちからうねりのように巻き起こる。
亜希子が言葉を締めくくり、拡声機を高く掲げて、響に向かって手を
振り始める。
会場全体から大きな拍手が沸き起こり、『響。響』の大合唱がおこる。
強い雨が降りしきるなか、ステージに向かう響のために、人垣が大きく割れて
すすむための道があらわれる。
現れた道に、両側から傘が、ア―チのように差しだされていく。
濡らさないための空間が、ステージまでつづいていく。


 一歩、響が歩くたびに、おめでとうの大合唱が巻き起こる。
中央のステージに近づくたびに、歓声はさらに大きくなっていく。
すすむたびに道はひろがり、響の頭上を覆う傘の数がますます増えていく。
人垣が響の歩みに合わせて、さらに左右へ割れていく。
前方に、ステージの中央で待つ亜希子の白衣の姿が見えてきた。
割れた人垣と、おめでとうコールの大合唱の真ん中を、頬を赤くさせた響が
瞳を潤ませて、歩み続けていく。


 「なんという素敵な、誕生日なのだろう・・・・
 私はこの日を、生きている限り、決して忘れないだろう。
 この嬉しさとこの感動に、私は一生感謝し続けることになるだろう。
 熱い連帯感。この歓喜。勇気と元気を沢山もらいました。
 25歳の私は、いま幸福の絶頂にいる。
 反原発と、脱原発を願う人々の気持ちに、こころから感謝します。
 本当の安全と平和を願う気持ちが、ここにある。
 未来に想いをはせる温かい気持ちが、此処には溢れている。
 私は、この日を決して忘れない。
 生きている限り、きっと忘れない。
 ここが、私の25歳の新しい原点にきっとなる。
 ここが、私の新しいスタートラインだ。
 ありがとう。私を、出迎えてくれた沢山のみなさん。
 ありがとう。私に新しいきっかけを与えてくれた、栃木の亜希子さん。
 ありがとう。私を今日まで育ててくれたお母さん。
 そして、たった一度でいいから心を込めてパパと呼びたかった、
 私の俊彦さん。
 私はおそらく・・・もっとも大きな幸せを噛みしめている人間の、
 一人です・・・
 生まれてきたことに、心の底から感謝したいと思います。
 生まれてきて本当によかった。
 たくさんの人々に囲まれ、此処まで生きて来れて、本当によかった私は。
 生きていくためには、たくさんの勇気と元気が必要になる。
 大勢の他人から、こんなにたくさんの元気をもらうなんて、
 生まれて初めてです!
 心の底から感謝するということも、この場で学びました・・・・
 人というものは・・・・沢山の人から勇気と元気をもらい、
 感謝しながら、生きていくものなんですねぇ。
 お母さん。お父さん。
 わたしはいま、生まれてきたことに心の底から、深く感謝をしています!」

 響の頬が濡れているのは、降り続いている雨のせいだけでは無いようだ。
自分の身体の奥深くから突きあげてくるものを、受け止めながら、
25歳になった響が、亜希子が待つステージに向かって、
一歩ずつ、力強く歩んでいく。

(96)へつづく