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連載小説「六連星(むつらぼし)」第91話~95話

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 後方で、長次郎へ向かって手を振っている俊彦を見つけ出す。
前方へ目を向けた岡本が、立ち往生している響と清子の姿を見つけ出す。
響たちも、ようやく後方の騒ぎに気がついたらしい。
頭ひとつ人波から抜け出ている長身の長次郎と、派手なのぼりが
近づいてくるのを、足を止めたまま、待っている。
汗だくの長次郎が、ようやく岡本の背後へ追いついてきた。


 「なんだ、お前。どうしたんだ、その派手なのぼりは。
 だいいち車はどこへ停めた・・・・いったい何が始まったんだ。
 俺にはさっぱり、訳がわからん」


 「親分。あっ、・・・・いけねぇ、社長!。
 それがまったくもって、驚きの事態というやつが発生しやした。
 デモ行進の関係者に、すぐそこで車を停められました。
 実はこういう訳で、はるばる群馬からやってきて、ここが済んだらすぐに
 福井の若狭に向かって出発をする予定だと説明をしたら、もうしかしたら、
 『響と言う女の子を乗せて、ここまで来たのか』と質問しやがるんです。
 響という女の子は乗せてきたが、デモの関係者がなんでそんなことを
 聞くんだと
 問い返したら『その子は今日のサプライズの女の子だ。
 到着が遅れているので、さっきから、ひたすら探していたところだ』
 と、大騒ぎをする始末です」


 「デモの最中に、サプライズと誕生日か?・・・・。
 よくわからん。それが響とどういう関係があるんだ。
 良く解るように、俺に説明をしろ」



 「それが、親分。・・・いや、社長。詳しい事はおいらにも解りません。
 車は安全な場所まで誘導しておくから、こののぼりを持って
 急いで響と合流してくれと急かされました。
 まもなく官邸の正面で、そのサプライズなんとかが始まるそうです。
 身長が高い方が目立つからと、おいらが指名をされた次第です。
 ああ、よかった。追いつくことができて」


 「なるほど。今日は、響の誕生日なのか。知らなかったなぁ・・・
 知っていたのか、トシ。お前は」

 
 「いや、俺もたった今、初めて知ったところだ。
 それにしても、俺の誕生日の1日前とは・・・・まさに奇遇そのものだな」

 「親孝行者でしょう、響は」


 人の流れに逆らい、立ち止まっていた清子が、嬉しそうな笑顔を見せる。
(あんたの誕生日と、1日違い。産んだあたしを褒めておくれ。
今日は響の誕生日。明日は愛しいあなたの誕生日。
この世でいちばん大切な人の誕生日が、2日も続くんだよ。
うふふ。嬉しいったら、ありゃしない!)
あまり反応を見せない俊彦の様子がよほど気に入らないのか、清子が軽く
俊彦の足を踏みつける。

 「あ・・・そうか今日は、響の誕生日か・・・うん、おめでとう、響。
 記念すべき誕生日がデモ行進の日と一緒とは、刺激的な一日になりそうだ。
 それにしても、俺と1日違いとは、まったく知らなかったなぁ。
 ということは、たしか25回目の誕生日になるのか・・・・もしかして?」

 響が、怖い目で俊彦を振り返る。
嬉しそうな顔どころか、その目には、敵意すら感じさせる気迫がこもっている。

 「あれ、ずいぶん恐い顔をしているなぁ、響は・・・・
 嬉しくないのか、響。
 せっかく25回目の誕生日を、盛大に祝ってあげていると言うのに・・・・」

 俊彦の耳へ、すかさず清子が小声で囁きかける。

 (馬鹿だねぇ、あんたったら・・・・配慮が欠けているわよ。
 大勢が居る中で、大きな声で響の本当の年齢をばらしてしまったら、
 あっというまに、情報が筒抜けになるじゃないの。
 女の子の25は、微妙な年頃なのよ。
 ほらごらん。あんたのせいで、響が怒っているわ。
 あ~あ、折角の良好にすすんでいた親子関係も、あなたの
 不用意なひとことで、ついにここまでかしら・・・・
 ひと言の失言で、致命的な墓穴を掘ってしまったようですねぇ。あなたは。
 響は怒ると、怖いものがありますからね、私は知りませんよ・・・
 うっふっふ)

 ポツリと落ちてきた雨粒が、俊彦の顔に当たる。
夕暮れの迫った都会の空に、いつの間にか雨雲が密集してきている。
夜かと思わせるほどの、暗い空に変ってきた。
群衆の中に、ポツポツと傘の花が咲きはじめる。

 「梅雨どきだもの。
 先ほどまで晴れていても、油断をすれば雨に変ります」

 清子が携帯用の傘を取り出す。
響へ手渡した後、もう一本を岡本に渡し、残る一本を悠然と頭上に広げる。

 「本格的に、降ってこなけりゃいいが・・・・」

 清子から受け取った傘を高い位置で広げた岡本が、足元の老婆を
かばうように、前方へ大きく傾けていく。