小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

連載小説「六連星(むつらぼし)」第91話~95話

INDEX|11ページ/15ページ|

次のページ前のページ
 


 
 「ほら。頭上で旋回しているあのヘリコプターの、どれかが
 撮影をしているんです。
 画像をそのまま、インターネットで公開しています。
 ここに集まってきている人たちも、インターネットやツイッタ―からの
 呼び掛けに応えて、集まってきた人たちです」

 「インターネットで情報を流すと、こんな風に人々が集まってくるのか。
 へぇぇ。海外での出来ごとばかりだと思っていたが、日本でもこんな風に
 デモが実現するとは、夢にも思ってもいなかった。
 長生きするもんだな、ばあちゃんよ。
 俺たちは、日本の歴史の新しい流れっていうやつを、
 目撃していることになる。
 これで今の政治や、原発の歴史が変わるということではないだろうが、
 時代に、大きなインパクトを残すことになる。
 自らの意志で、行動する事が大切なんだ。
 オリンピックじゃないが参加することに、大いに意義があるんだな」


 「上手い表現しますね、おじさんも。まさにその通りだと思います。
 見過ごせないと感じている人たちが、自分の意志で、
 官邸前へ集まってきています。
 政府にまかせておけないからこそ、おおくの人たちが再稼働反対の声をあげて
 ぞくぞくと、官邸前へ集まってくるのだと思います」


 なるほどなぁ、と岡本があらためて周囲を見回す。
足元の老婆をかばっているうちに、清子や響と距離が生まれてきた。
密集の度合いは、岡本の身動きを許さない。
あきらめ顔の岡本が今度は、うしろに居るはずの俊彦を探しはじめた。


 振り返った岡本の目に、いくら探しても俊彦の姿は見えない。
6車線の路面いっぱいに広がった人の波は、首相官邸の正面ゲートをめざし、
ゆるやかなにうねりながら、さらに前に進もうとしている。

 恋人同士や、若いカップルの姿も沢山見える。
仕事帰りと思える、ネクタイをゆるめたビジネスマンの姿も有る。
子供を連れた、家族連れの姿が見える。
初老にさしかかったダンディな紳士と、肩に寄り添う淑女の姿も見てとれる。

 前に向かってすすもうとする彼らから、切羽詰まった緊迫感や、
使命感は見えない。
政治的な匂いは、ほとんど言っていいほど漂ってこない。
ところどころに混じるゼッケンやプラカード、原発反対の横断幕が
見えなければ、お祭りや縁日の賑わいなどと、なんら変わりのない
光景のように見えてくる。


 3月からまった毎週金曜日の夜のデモ行動は、回を重ねるたびに
大きく育ってきた。
最大の特徴は、集まってくる人たちの多様な顔ぶれにある。
政治活動や社会的活動の経歴を一切を持たない人たちが、ツイッタ―と
ネットからの呼びかけに応えて、ぞくぞくと抗議のために
官邸前へ集結してくる。

 (この程度の人数や抗議活動で、日本の政治が変わるとは思えない。
 だが、変革を感じさせる、強いインパクトとエネルギーが証明された。
 社会や政治に関心を持たないと思われていた世代が、これだけの数でここへ
 集まって来るなんて、捨てたもんじゃないな。これからの日本も・・・・)


 群衆の姿を見つめている岡本の目に、派手なのぼりが飛び込んできた。
黄色い下地に大きく、「ハッピバースディ、響」と赤い文字で書かれた
のぼりが、群衆をかき分けながら、こちらへ向かって進んでくる。
別次元の速度でこちらへすすんでくるのは、凸凹コンビのひとり、長身の
国定長次郎だ。


 (なんだ、あの野郎・・・・さっきまで車を運転していたはずだが・・・
 いつのまに、あんなのぼりなんか準備していたんだ?
 ハッピバースディって書いて有るなぁ。 誕生日なのか、響は・・・・ )