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てっしゅう
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novelistID. 29231
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「もう一つの戦争」 敗北と幸一の運命 1.

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「建武の中興だぞ。聞き間違えたか?日本人ならみんな尊敬している楠公さまは二宮尊徳と並ぶ男の鏡だ。少将もいずれその雄姿を讃えられるだろう」

裕美子は夫が真の軍人であることを痛感した。
娘の父親であって欲しいと願う気持ちは、この時代口に出して言ってはいけないことのように感じられた。

月が替わって七月に五十六は修善寺にやってきた。
女将の信子が兄に懇願して来てもらえるようにしたのだ。
復員していた幸一もお供として随行してきた。

「女将、しばらくぶりだな。こんなにやつれてしまったよ。司令長官が情けないと思ってる」

「旦那様、ようこそお越しになられました。ごゆっくりとなさってください」

五十六は赤子の泣く声を耳にした。

「裕美子さんの子供が居るのか?」

「はい、三か月になります」

「うむ、見せてもらえるかな?」

「それは喜ぶと思います。呼んでまいります」

「いや、直ぐでなくともよい。泣き止んだら私が顔を覗きに行こう」

「わかりました。では温泉にお浸かりになられますか?」

「そうだな。少尉と一緒に入らせてもらう」

「すぐにご用意いたします」