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てっしゅう
てっしゅう
novelistID. 29231
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「もう一つの戦争」 敗北と幸一の運命 1.

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アメリカ軍の戦死者は三百七人であった。
敗因は驕慢の一語に尽きる。
日本海軍が空母部隊の再建を図っている間に、アメリカ軍は真珠湾での大敗北から立ち直るべく十分すぎる時間を与える結果となってしまった。

ミッドウェーでの敗戦を聞いた幸一は悔しさで眠れなかった。
尊敬する山口多聞少将の無念を考えると自分が果たせなかった不甲斐なさを嘆き続けていた。娘の美幸の泣き顔に接してもあやすわけでもなく、ただ黙って見つめるだけの時間が過ぎていた。

怪我が治り伊豆に戻ってきた幸一と裕美子は、無念の撤退をした五十六の心中をおもんばかっていた。

「幸一さん、山本様は大丈夫でしょうか?何の連絡もされないし、この前来られた海軍の方たちが最近表に出てこられないと心配されていた様子でしたから」

「うん、ミッドウェーの敗戦は司令官にとっては子供を失った如くに悲しまれているだろう。今は静かになさっている方がよろしいかと思う」

「そうですね。あなたには直属の司令官だった山口少将の無念のほうが大きいのではないですか?」

「ああ、本当に立ち直れないかと思ったぐらいに自分の中にやるせない気持ちが充満していた。司令官には楠木正成公の幼名、多聞丸からお名前を拝借したと語って戴いた。その誉れにふさわしい最後だったと聞く。日本海軍軍人としてそのお名前は永久に語り継がれるに違いない」

「楠木正成ですか・・・建武の新政の功労者だと聞いています」