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Hysteric Papillion 第18話

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『ガ・ン・バ・レ』












その言葉のあと、小さく浮かべられた微笑に…でれっとなりそうなのを押さえながら、あー、いや…押さえられてなかった…かもしれないけどっ!

コホンッ、きちんと、はっきりさせるべきだと思うから、桔平ちゃんをにらみつける。

「…どうなの?」

「お…おいおい、宥稀、おまえ本気で言ってんのか?」

…そっちこそ何言ってるの?

でも、その物言いに、私はどうしてか、心をグサッとやられた気がした。

そして、スウスウ乾いた風が通り抜けていく…こんな気持ちは、あの叔父さんと口論になった時以来だった。

「本気って…」

「ハハッ、だっておまえ、今野センパイは男なんだぜ?オレも男だし…なんかこう、ほら…」

「…なんか、こう?」

「だから…変じゃん、そんなのってさ」












そっか…そういうことか…。

わかってなかったとは言わない、そう、こんなことを言われることを予測していなかったなんて、言えない。










男の人が男の人を愛すること。










女の人が女の人を愛すること。









ないわけじゃないよ、そういうのって。

…でも、わかってもらえないのは、悲しいんだ。

まるで、自分たちの存在意義が消されてしまうみたいで。










今野センパイの方にチラッと視線を送ってみると、目をぐっと閉じているセンパイが、すごく痛々しく見えた。

そんなセンパイの姿が見えているのか、見えていないのか、桔平ちゃんは、バラバラと自分の言いたいことを連ねていく。

「んな、ホモなんて気持ちワリイもんには…」

「…っ!!」















「だから何なの!?」
















ものすごい音がした…気がする。

気づいたら、桔平ちゃんは私の前で、鼻血を手で押さえながらアスファルトの上に転がっていた。

ちょっと手の甲が腫れていて、じんわり赤く色づいていた。

何か込み上げてくるものが、私を押し出すみたいにどんどん口から言葉を吐き出させる。

「だからなんだって言うの!?そんなにいやなの?人から変な目で見られるから、センパイのこと真剣に考えられないわけ?真剣に考えないで、気持ち悪いとか言うわけ!?」

「つっ…うあ…」

ボタボタ垂れてくる血液を手で受けながら、桔平ちゃんは私の目をじっとにらみつけていた。

そして、ゼイゼイ息を上げながら一気にそう言い切った私を止めるためなのか、薫さんの腕が私の体を引き寄せる。

「宥稀ちゃん、ちょっとこれはやりすぎ…っ!?」

「う…えっ!?」

こんなに真剣に…というのも変だけど、自分から薫さんにキスしたのは、よく考えたら…初めて、かな?

近づいた薫さんの両頬に手を当てて引き寄せて、そのまま唇にキス。

さっきみたいな軽いキスじゃなくて、しっかりとお互いをつなぎ合わせるようなキス。

ただ…いつも薫さんがしてくれるみたいに、しようと思ったんだけど勢い誤って、ゴツッと歯がぶつかってしまい、じんじんした。

で…でもその後は、きちんとできたと思うんだ。











「…ゆ…宥稀?薫さん?」

妙に上ずった声が聞こえてきて、私は薫さんから唇を離した。

とろんとした唾液の糸が、2人の間をつなぐ。

ゴシゴシとその糸を手で拭うと、私は少々やりすぎたかな…と思った。

目の前には、目を白黒させている桔平ちゃんがいた。

「…私は、薫さんのこと大好き。女の人だけど、好き…この人のおかげで、私は変われるって思った、一緒にいたいって思った…。でも、もう桔平ちゃんは私のこと嫌いになったよね、こういう人のこと、気持ち悪いって思うんでしょ?」












大きな賭けだったんだ、実は。

このまま、もし桔平ちゃんがこんなことした私を軽蔑したとしたら、ただ引っかきまわすだけ引っかきまわして、結局今野センパイの力にはなれなかったことになる。












「…オレ、宥稀のこと、嫌いじゃない…嫌いになんて、なれないよ…」












髪をワシワシしながら、桔平ちゃんは、立ち上がった。

鼻血でベタベタの頬や鼻を拭いながら、笑顔を向けてくれる。

「すっげえお似合い…」

へへっと笑ったその笑顔に、私のどきどきしていた心臓も、ようやく普通心拍を始めた気がした。

そして、今野センパイに向かって、ビシッと一礼する。

「すみませんしたっ!」

「…桔平?」

「オレ、気持ちワリイなんて言っちまって…真剣に考えもしないで…オレ、センパイのこと、真剣に考えます。自分なりに答えだします。だから、待ってくださいませんか?」

その言葉に、今野センパイは、うれしそうに…なぜかにまーっと笑みを浮かべた。











…何か違う気がする笑顔だなぁ。











と思ってたら、ぱっと普通の笑顔に早がわりする今野センパイ。

「…わかったよ、桔平」

「ありがとうっス、センパイ!」

「ふふっ、もちろん待つさ。その間に、おまえを…」

「…センパイ?」

「ん…何でもないよ♪」










とにもかくにも、うまく収まったみたいで、よかったぁ…うんうん、ほんとよかった…。

















「宥稀ちゃんって、けっこう大胆ね?」

「え!?」

薫さんはノンシュガーのアイスコーヒーを片手に、私はちょっとお行儀悪く、フローリングの上に寝転がってテレビを見ていた時、そう切り出された。

そ、そんな、大胆だなんて…あれは、作戦というか、賭けというか、ですね…。

そうこうゴチャゴチャ口の中でモゴモゴさせていたら、クルッと体の向きが変えられて…かおるさんに押し倒された状態にぃ…。

え、あの、一体何がどうでこう…。

「でもほんと、キスはまだまだ下手ね。練習してみよっか?」

そう言うと、私の体半分を起こして、自分はその前で膝たて、両手を私の両脇について、目を閉じて待ってる。

「ほら、おいでー♪」

「あー…」

「今日はすごいのしてくれたじゃない」

「それは…」

「ほらほら」

気合を入れて、目をぎゅっと閉じて、薫さんの唇に触れる。

苦い味…やっぱりコーヒーは好きになれないかも…。

って思いつつ、ちょこっと時間が経ったら、唇を舌先で触って、中に…って、まるで何かの参考書どおりに進めてるから、頭の中の整理がつかない。

えーっと、次は…どうするんだっけ…。

こういう心境の中で、薫さんの唇や舌をいろいろしてはみたけど、目を開けて、唇を離した私の前の薫さんは、くすくす笑ってるだけだった。

「ふふっ…100点中13点くらいかな」

100点中13点…低すぎだ、ほんと…テストなら追試だね…。

「そんなものですか…」

「ま、しばらく精進を心がけたまえ。でも、13点は…ねえ…」

『ここまで下手だと、何かペナルティつけないと…』という薫さん、一人で腕組して悩んだ挙句、何か思いついたのか、にぱっとした顔に。

「ペナルティ、ですか…?」