Hysteric Papillion 第18話
…というか、凍り付いちゃダメじゃん、自分。
私ってひどい人間、最低です。
自分は薫さんのことが大好きです。
同性の、女性を好きになりました。
なのに、今野センパイが桔平ちゃんに告白したと聞いたとき、ちょっとだけ、
ほんの少しだけ、
寒気がしたんだ…。
「…って人が自己嫌悪に陥ってる時にぃ…」
「やあ、宥稀ちゃん?」
「…どうしてあなたが家にいるんですかっ!?」
目の前にいる今野センパイは、薫さんと向かい合って、リビングの小さなテーブルのところでアイスコーヒーを飲んでいた…ガムシロップ4つも入れて…。
相当の甘党ですか。
しかも、手なんて振ってきたりしてさ…。
「あら、お帰りなさい、宥稀ちゃん…2人とも、知り合い…」
「……になりますね。まあまあ、こっちにおいでよ、立っているのもなんだし、ね?」
だから、人は自己嫌悪に陥ってるのに、当事者のあなたにそういうこと言われたら…従うしかないじゃないですか、もうっ…。
今野センパイの隣はいや…というか、バツが悪かったから、薫さんの隣に座る。
どうしてか、そこにはもう一つ分、コーヒーじゃなくて、アイスティが入ったグラスにストローが刺さっていた。
まだ入れたてみたいで、カラランッと涼しい音が響いてる。
「もうそろそろ帰ってくるかなって思ってたのよ。宥稀ちゃん、喉渇いたでしょ?」
うおー、薫さんのそのにこっとほころばせた笑顔にきゅんっとなっちゃうよぉ…。
「えへへ…薫さん、だーいすきっ」
首筋にギュッと抱きついてしまう。
薫さんは、コーヒーはブラック、ケーキなんて食べれないくらいに甘いものは大の苦手。
だから、唇からは、ちょこっとコーヒーの苦い香りがした。
「ゆ、宥稀ちゃん…?」
なのに、何だか、おっかなびっくりの顔の薫さん、え?何か問題あった…!
「へえ、仲いいんですね?薫さんと…
…宥稀ちゃん?」
…じゃん!
十分にあったじゃん、どうしてこんなにバカなんでしょう、私って…。
パッと薫さんの首に巻きつけてる腕を離して、きちんと正座しなおす。
「…えーっと…これはその…」
その…そう、きれいな愛情表現というか、アメリカンな考えに基づいてというか…うー…。
「ハハハ、いいよ。薫さんのことはオレ、よく知ってるからさ。ね?薫さん?」
「ええ、そうね」
ハハハ…って私をほっぽって笑い始めた2人を見ながら、少し疎外感を感じてる私。
「あのう、今野センパイと薫さんって…」
「ああ、オレね、薫さんの持ってる…」
「こ、この花屋さんの常連さんでね、話してるうちに同類の友ってわかったのよ!」
ん…なんか妙に焦り口調だな、薫さん。
つーか、同類の友、ですか?
「…どうしたの?薫さん、変だよ、なんか…」
「え?ううん、そんなことないわよ…」
『そんなことないの』と、念を押すように言って、ちゅっとお返しみたいに頬にキスされた。
…♪
…だーっ!!
でれでれしてる場合じゃないっ!
キスされたところを押さえて、私が顔を真っ赤にして言葉を詰まらせてると、ため息が聞こえる。
もちろん、そのため息の主は今野センパイ。
「いいなぁ、薫さんは…。宥稀ちゃんみたいな子がそばにいてくれて…」
「友希君…」
「あの…桔平ちゃんのこと…」
そこまで言いかけると、そっと今野センパイは私の唇に指を置いた。
まるで、気にしなくていいよ、って言ってるみたいに…。
「やっぱり、今出かけてたのはそのことだったんだね。そう、桔平のやつ、元気だった?」
『って聞いても、そんなわけないよな』と付け足して、今野センパイはくすくす笑う。
どうして笑ってられるのかな?
だって、桔平ちゃんは…センパイのこと…。
「オレはね、宥稀ちゃん、物心ついたときから男の人しか愛せないっていうかね…
一応努力はしたんだ、共学校で、女の子を好きになる努力とかもね…
だけど、そういうのは、医学的にも証明されてて、どうしようもないというか…。
桔平のこと、本気で好きだけど、やっぱり…」
『しかた、ないんだよ…』って言ったセンパイの顔は、どことなく、薫さんの悲しげな笑顔に似ていたから、
私は、速攻で今野センパイを引っ張って、薫さんの車で、桔平ちゃんの家に押しかけた。
桔平ちゃんの家は、酒屋さんだ。
この辺りでも古くからある酒屋さんで、ちょうどここからちょっと右に行ったところに、私が住んでたアパートがあった。
ごく普通の、あんな叔父さんがいるのにどうして?って思われるくらい、狭くてたいしてきれいでもないアパートだった。
ここもだいぶ都市化が進んでて、ほとんど建物が変わってて、そのアパートも消えてる。
今、そこが駐車場になってるのを見ると、今でも少し胸が痛む。
自動販売機がたくさん並んでて、その間にガラス扉があって…入り口だ。
夜になると光る看板には、『相沢酒店』という黄色い文字が浮かぶ、もちろんまだ営業中だった。
…ようっし!!
とりあえず、桔平ちゃんを連れ出さないといけない、何が何でも、今野センパイに引き合わせないといけないんだ!
「って、おい!痛いって、待てよこら、宥稀!?」
「待てって言われて、待てるわけないでしょ!?ほらほら、早く出て…くるっ!!」
「バカやろ、落・ち・る―――っ!!!!」
ガンガンガンガンッとなんか壁にぶつかるような音がしていたけど、そのあたりはまあ無視して…2階の部屋にいた桔平ちゃんを引きずりおろしてきた。
そして、お店の前で待っていた今野センパイと薫さんの前にドカッと蹴って差し出す。
目の前には、ボロボロの桔平ちゃん。
「オレ、バスケのプレスよりも、暴走族よりも、台湾のマフィアよりも、今の宥稀の方がこええかも…」
「ゆ、宥稀ちゃん…やりすぎだよ、それは…」
ひっどいなぁ、今野センパイったら…って、あ、薫さんまでその困った笑顔は何なんですか!?
そして、腰をさすったり頭をさすったりしながら、桔平ちゃんはようやく、目の前に今野センパイがいるのに気づいたのか、ピョンッと跳ね飛ぶ。
「げ…こ、今野…センパイ…」
「桔平ちゃん、今野センパイの事、どう思ってるわけ?」
…センパイの顔を見て、露骨にいやそうな顔をした桔平ちゃんに、私は大声でそう叩きつけた。
一瞬、今野センパイの顔がぴくっと引きつって、そして、同時に薫さんは、こちらをじっと見つめていた。
見つめるだけ…そう、私の方をしっかり見つめてるだけ。
そして、小さく口を動かす。
私ってひどい人間、最低です。
自分は薫さんのことが大好きです。
同性の、女性を好きになりました。
なのに、今野センパイが桔平ちゃんに告白したと聞いたとき、ちょっとだけ、
ほんの少しだけ、
寒気がしたんだ…。
「…って人が自己嫌悪に陥ってる時にぃ…」
「やあ、宥稀ちゃん?」
「…どうしてあなたが家にいるんですかっ!?」
目の前にいる今野センパイは、薫さんと向かい合って、リビングの小さなテーブルのところでアイスコーヒーを飲んでいた…ガムシロップ4つも入れて…。
相当の甘党ですか。
しかも、手なんて振ってきたりしてさ…。
「あら、お帰りなさい、宥稀ちゃん…2人とも、知り合い…」
「……になりますね。まあまあ、こっちにおいでよ、立っているのもなんだし、ね?」
だから、人は自己嫌悪に陥ってるのに、当事者のあなたにそういうこと言われたら…従うしかないじゃないですか、もうっ…。
今野センパイの隣はいや…というか、バツが悪かったから、薫さんの隣に座る。
どうしてか、そこにはもう一つ分、コーヒーじゃなくて、アイスティが入ったグラスにストローが刺さっていた。
まだ入れたてみたいで、カラランッと涼しい音が響いてる。
「もうそろそろ帰ってくるかなって思ってたのよ。宥稀ちゃん、喉渇いたでしょ?」
うおー、薫さんのそのにこっとほころばせた笑顔にきゅんっとなっちゃうよぉ…。
「えへへ…薫さん、だーいすきっ」
首筋にギュッと抱きついてしまう。
薫さんは、コーヒーはブラック、ケーキなんて食べれないくらいに甘いものは大の苦手。
だから、唇からは、ちょこっとコーヒーの苦い香りがした。
「ゆ、宥稀ちゃん…?」
なのに、何だか、おっかなびっくりの顔の薫さん、え?何か問題あった…!
「へえ、仲いいんですね?薫さんと…
…宥稀ちゃん?」
…じゃん!
十分にあったじゃん、どうしてこんなにバカなんでしょう、私って…。
パッと薫さんの首に巻きつけてる腕を離して、きちんと正座しなおす。
「…えーっと…これはその…」
その…そう、きれいな愛情表現というか、アメリカンな考えに基づいてというか…うー…。
「ハハハ、いいよ。薫さんのことはオレ、よく知ってるからさ。ね?薫さん?」
「ええ、そうね」
ハハハ…って私をほっぽって笑い始めた2人を見ながら、少し疎外感を感じてる私。
「あのう、今野センパイと薫さんって…」
「ああ、オレね、薫さんの持ってる…」
「こ、この花屋さんの常連さんでね、話してるうちに同類の友ってわかったのよ!」
ん…なんか妙に焦り口調だな、薫さん。
つーか、同類の友、ですか?
「…どうしたの?薫さん、変だよ、なんか…」
「え?ううん、そんなことないわよ…」
『そんなことないの』と、念を押すように言って、ちゅっとお返しみたいに頬にキスされた。
…♪
…だーっ!!
でれでれしてる場合じゃないっ!
キスされたところを押さえて、私が顔を真っ赤にして言葉を詰まらせてると、ため息が聞こえる。
もちろん、そのため息の主は今野センパイ。
「いいなぁ、薫さんは…。宥稀ちゃんみたいな子がそばにいてくれて…」
「友希君…」
「あの…桔平ちゃんのこと…」
そこまで言いかけると、そっと今野センパイは私の唇に指を置いた。
まるで、気にしなくていいよ、って言ってるみたいに…。
「やっぱり、今出かけてたのはそのことだったんだね。そう、桔平のやつ、元気だった?」
『って聞いても、そんなわけないよな』と付け足して、今野センパイはくすくす笑う。
どうして笑ってられるのかな?
だって、桔平ちゃんは…センパイのこと…。
「オレはね、宥稀ちゃん、物心ついたときから男の人しか愛せないっていうかね…
一応努力はしたんだ、共学校で、女の子を好きになる努力とかもね…
だけど、そういうのは、医学的にも証明されてて、どうしようもないというか…。
桔平のこと、本気で好きだけど、やっぱり…」
『しかた、ないんだよ…』って言ったセンパイの顔は、どことなく、薫さんの悲しげな笑顔に似ていたから、
私は、速攻で今野センパイを引っ張って、薫さんの車で、桔平ちゃんの家に押しかけた。
桔平ちゃんの家は、酒屋さんだ。
この辺りでも古くからある酒屋さんで、ちょうどここからちょっと右に行ったところに、私が住んでたアパートがあった。
ごく普通の、あんな叔父さんがいるのにどうして?って思われるくらい、狭くてたいしてきれいでもないアパートだった。
ここもだいぶ都市化が進んでて、ほとんど建物が変わってて、そのアパートも消えてる。
今、そこが駐車場になってるのを見ると、今でも少し胸が痛む。
自動販売機がたくさん並んでて、その間にガラス扉があって…入り口だ。
夜になると光る看板には、『相沢酒店』という黄色い文字が浮かぶ、もちろんまだ営業中だった。
…ようっし!!
とりあえず、桔平ちゃんを連れ出さないといけない、何が何でも、今野センパイに引き合わせないといけないんだ!
「って、おい!痛いって、待てよこら、宥稀!?」
「待てって言われて、待てるわけないでしょ!?ほらほら、早く出て…くるっ!!」
「バカやろ、落・ち・る―――っ!!!!」
ガンガンガンガンッとなんか壁にぶつかるような音がしていたけど、そのあたりはまあ無視して…2階の部屋にいた桔平ちゃんを引きずりおろしてきた。
そして、お店の前で待っていた今野センパイと薫さんの前にドカッと蹴って差し出す。
目の前には、ボロボロの桔平ちゃん。
「オレ、バスケのプレスよりも、暴走族よりも、台湾のマフィアよりも、今の宥稀の方がこええかも…」
「ゆ、宥稀ちゃん…やりすぎだよ、それは…」
ひっどいなぁ、今野センパイったら…って、あ、薫さんまでその困った笑顔は何なんですか!?
そして、腰をさすったり頭をさすったりしながら、桔平ちゃんはようやく、目の前に今野センパイがいるのに気づいたのか、ピョンッと跳ね飛ぶ。
「げ…こ、今野…センパイ…」
「桔平ちゃん、今野センパイの事、どう思ってるわけ?」
…センパイの顔を見て、露骨にいやそうな顔をした桔平ちゃんに、私は大声でそう叩きつけた。
一瞬、今野センパイの顔がぴくっと引きつって、そして、同時に薫さんは、こちらをじっと見つめていた。
見つめるだけ…そう、私の方をしっかり見つめてるだけ。
そして、小さく口を動かす。
作品名:Hysteric Papillion 第18話 作家名:奥谷紗耶