連載小説「六連星(むつらぼし)」第86話~第90話
原子炉近くのエリアで、炉心に入るための装備を始めました。
すべてを装着するため、2名の作業員が手伝ってくれます。
原子炉の周辺では高度の放射線が飛び回っていて、常に危険な状態がつづいています。
原子炉内部での作業になると、さらに一気に危険な世界に変ります。
作業着は、2枚を重ねて着用します。さらにその上に紙でできたビニール製の
タイベックスーツを着用します。
注釈)タイベックススーツ(簡易防護服)とは。
タイベックスーツは、ポリエチレン繊維から生まれた不織布のこと。
軽くて、丈夫で作業性がよく、使い捨にされる防護服。
高濃度の放射線管理区域内での作業に、最適なものとされている。
タイベックスーツは、ケミカルテープ等で手袋や靴などとの隙間を
簡単に止めることができる。
放射性物質が、直接皮膚に付着するのを防ぐことができるとされている。
さらにその上に、エアラインマスクをかぶります。
首の部分や手首の部分、足首の部分など、少しでも隙間の生じる恐れのある
個所は、ビニールテープでぐるぐる巻きにされて、完全な
密封状態を作り出します。
宇宙服かと思われるような重装備の装着が完了すると、
炉心部に向かって誘導されます。
炉心部に到着すると、さらに別の2名の作業員が待機しています。
日本非破壊検査という会社から、派遣された社員たちです。
驚ろくべきことに、そこで待機をしていた2名は、ここが極めて危険な
高放射線のエリアだというのに、まったく無防備なスタイルをしています。
制服と思われる、普通の作業着を点けたままの姿です。
汚染を避けるためのエアラインマスクさえ、装着していません。
非破壊検査というのは、物を壊さずにその内部にある傷や、検査しにくい
部分に出来る傷、あるいは劣化の進行状況などを、特殊な機械を用いて
調べ出すことができる検査技術です。
定期点検中の原子炉の内部検査のために、彼らもまた、
非破壊検査の会社から、ロボットとともに派遣されてきたのです。
責任者らしい人物が、私を手招ねきしました。
責任者は、マスクの中の私の目を何度も執拗に見つめたあと、
やがて『これなら大丈夫』と、納得のうなずきを繰り返します。
おそらく私の目を見ることによって、これからさきの炉心内で行われる作業に
耐えられるかどうか、目視によって判断したのだろうと思います。
作品名:連載小説「六連星(むつらぼし)」第86話~第90話 作家名:落合順平