連載小説「六連星(むつらぼし)」第86話~第90話
「詳しい事は、数えていねえから俺にはよく解らねぇ、後でトシに聞け。
たしか・・・・5人目か、6人目くらいだろう・・・
いや、もう少し多いかな?
福島が爆発してから、急に体内被ばく量が増えたからなぁ」
「大雑把な奴だな、相変わらずお前さんという男は。
では聞くが、今日の仏さんの出身地はどこだ。
適当なお前でも、そのくらいなら覚えているだろう。
供養する、こちらの仏さんのためにも、な」
「山本の出身地か・・・・どこだったっけか、響。
能登の山奥か、富山県のド田舎だ、いや、福井の海辺のあたりかな・・・・
詳しい事は、分からねぇ。
どうせ無縁仏になっちまうんだ。
かまわねえだろう、山本が生まれた場所なんか」
「福井県の若狭です。
美浜原発が有る美浜の町が、山本さんが生ま育った故郷です」
見かねた響が、岡本の横から住職へ答えを伝える。
「お連れのこちらの美しいお嬢さんの方が、どこぞの田舎の極道よりも、
よほどしっかりしているわい!。
初めて拝見するお顔ですが、こちらはどちらの娘さんです?」
坊主の長岡が、鋭い目で岡本を見つめる。
「馬鹿野郎。胡散臭い目で俺を見るんじゃねぇ。
俺の事は悪く言ってもいいが、こちらのお嬢さんの悪口は言うんじゃねぇぞ。
誰だと思う、こちらの美しいお嬢さんの正体は。
何を隠そう、恐れ多くもあの蕎麦屋のトシのひとり娘だ。
どうだ、驚ろいたか、たまげただろう!
あっ、いけねぇ、つい調子に乗って、余計なことをしゃべっちまった!
悪い。この話しは、トシと清子には内緒だぜ。
聞かなかったことにしてくれ、この、くそ坊主」
「なに、トシの一人娘。・・・・
ということは、清子が20歳の時に産んだ子か。
宇都宮で行き会って、思わず赤いランドセルを買ってやったという、
あの時の、あの女の子が、この子か・・・・
なるほど。やっぱり清子の一人娘の父親は、トシだったのか。
なるほどなぁ。世に中、何が起こるかわからにものだ。
なんまいだぶ、まんまいだぶ、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経」
「おいおい、いきなり拝むんじゃねぇ、驚くだろう。縁起でもねぇ。
そう言うことだから、あの2人には口にしないでくれよ。頼んだぜ。
俺が秘密をばらしたと知ったら、あの2人から八つ裂きにされちまう。
寿命が縮まったぜ。まったく」
「先ほど無縁仏とおっしゃっていましたが、
山本さんもやはり、無縁仏として供養されるのですか?」
「無縁仏にも、いろいろと有る。
昔は、行き倒れて身寄りのない人を供養する場合、無縁仏と呼んだ。
だが、現在は新しい形の無縁仏が増えておる。
亡くなった人を弔う親族や縁者が途絶えたことで、お墓の継承者が
いなくなり、お墓参りをする人もいなくなった墓のことを、
無縁仏と呼ぶようになった。
例えば、地方から都会に移り住んだ場合。
家や土地は売ることができても、お墓は整理して売ることが出来ない。
そのままにしていることがほとんどだ。
都会の生活が長くなるのにつれて、だんだんと墓から足が遠のいていく。
その結果。草木に覆われて荒れ果てるお墓が多くなる。
ここの墓地でも、そんな風に訪れる人のいなくなったお墓が
いくつかあります。
しかしあなたや、トシさんや岡本さんが、こうして寺に訪れているうちは
山本さんは無縁仏と呼ばれません。
本堂に安置しておりますので、想いだしたとき、いつでも
会いに来てください。
仏様に会いに来る行為を、供養と呼んでいます。
思い出した時にやって来る。それだけでも立派な供養になります」
住職の説明が一段落する頃。ようやく本堂の上がり口にトシと清子が
姿を見せる。
その背後に、黒ずくめの凸凹コンビが顔を見せる。
全員が揃ったところで、供養の読経が始まる。
香りの高い煙がたなびく中。住職の低い読経の声が、静かに
本堂の中を流れていく。
最前列に俊彦と清子。その背後に響と岡本。最後尾に凸凹コンビの若い衆。
6人が頭を深く下げる中、住職の読経は30分あまりにわたって続く。
作品名:連載小説「六連星(むつらぼし)」第86話~第90話 作家名:落合順平