天気予報の恋人
メインディッシュも終わり、スィーツとコーヒーが運ばれてきた時、僕はおもむろにセカンドバックから小さな包みを取り出した。それを彼女に差し出す。
「なぁに、これ?」
「いいから、開けてごらん」
彼女が包み紙を解く。僕は固唾を飲み込んで、それを見守る。
「ダイヤのリング……」
そう、僕は彼女にリングのコートを着せよう、そう思っていたのだ。
「結婚……して欲しいんだ」
彼女の口が開くまで、恐ろしく長く感じられた。僕は俯いて彼女の返事を待つしかなかった。
(どれだけ待てばいいのですか?)
その間、僕は「SAY YES」と彼女に念を送り続けた。
「ありがとう……。私、ずっと待っていたのよ」
その言葉に僕は顔を上げた。きっと僕は晴れやかな顔をしていたに違いない。
彼女の目には涙が光っていた。僕が送ったダイヤよりも美しく輝く涙だった。
「私、ずっと後まわしにされていたのかと思ってた……」
その彼女の言葉に、僕の心は締め付けられた。自分の自信と勇気のなさに今更ながら呵責の念を感じる。
指輪が泣いた。嬉し泣きだろうか。それとも、彼女の涙の美しさに負けた悔し涙だろうか。
ホテルの部屋に入った僕と彼女は、言葉を交わすこともなく、互いに唇を貪った。何とも甘美で官能的なキスだった。最初のキスは月が海にとける夜だったっけ。
彼女の唇と僕の唇が糸を引いて離れた。僕は彼女の肩越しに、カーテンの透き間から覗く月に目をやった。二人の濃厚なキスを覗き見したからか、まるで月が言い訳してるようだった。
月に覗かれないよう、カーテンをしっかり閉めると、僕と彼女は服を脱いでベッドに上がった。
仄かなスタンドが彼女の肢体を、カゲロウのように朧げに浮かび上がらせる。
僕は思わず彼女に抱き着いた。そして、彼女の背中に腕を回す。今日は遠くなかった。
今まで、何回も彼女を抱いてきたが、僕に不安があったせいだろう、どこか彼女に「距離」を感じていた。腕を回していても、本当に彼女を掴んでいるのか不安に駆られていたのだ。彼女の背中は、モナリザの背中よりも遠い気がしてた。
だが、今日は違う。はっきりと僕の腕の中に彼女はいる。もう、彼女はどこにも行ったりはしない。
彼女の口から甘いラプソディーが流れた。僕の中では熱風が吹き荒れていた。
「ねえ、声を聞かせて……」